ソフトウェア業界のビジネスチャンスを探る

永井美智子(CNET Japan編集部)2004年12月09日 10時00分

 ソフトウェア業界のベンチャー企業にとって、ビジネスチャンスはどこにあるのか。また、成功のポイントとは何なのだろうか。サイボウズとリアルコムの事例をもとに、サイボウズ代表取締役社長の高須賀宣氏、リアルコム代表取締役社長の谷本肇氏、IBM Venture Capital Group, Venture Development Executiveの勝屋久氏、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ取締役の中野慎三氏、NTTデータビジネスイノベーション本部VC投資プロジェクトリーダーの関根智氏がそれぞれの立場から意見を交わした。モデレーターは経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課 課長補佐の河野太志氏が務めた。

-----------------------------

愛媛県松山市生まれ。38歳。広島工業大学工学部経営工学科卒業後、1990年4月、松下電工入社。1996年9月、ヴイ・インターネットオペレーションズ(松下電工グループ子会社)を設立、副社長に就任。1997年8月、サイボウズを松山市に設立、代表取締役に就任。EIP型グループウェアを開発しインターネットを介した販売によって、7年間で国内1万9000社に導入される。2002年3月には設立4年7カ月で東証二部に上場。
-----------
慶應ビジネススクールMBA、米国ウオートンスクール交換留学生。1989年、戦略コンサルティング会社ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン入社。1994年にシリコンバレーに渡り、コンサルタントとして米国ベンチャーと日本企業の戦略提携をハンズオンでサポート。2000年に帰国、KMソリューションを提供するリアルコムを設立。ソニー、ファイザー、東京三菱銀行など内外大手50社を顧客に、当分野でのリーダーと目されている。
-----------
1985年、上智大学数学科卒、日本IBM入社。営業、チャネル営業、マーケットマネージメントを経て、1999年、ネットジェンタスクリーダーとしてビジネス立ち上げを行う。2001年、UK The Chartered Institute of Marketing卒業。2000年からIBM Venture Capital Group日本担当として活動。5年間で約1500社のベンチャー経営者及び約600名のベンチャーキャピタル・投資家の方々とコンタクトしてきた。総務省管轄独立行政法人情報通信研究機構(NICT)情報通信ベンチャー支援センタービジネスプラン発表会審査委員など手掛ける。
-----------
1989年、伊藤忠商事入社。以来、一貫してIT業界に従事。伊藤忠商事では情報産業部門にて事業会社設立等の新規事業開発、情報システム部門にてシステム開発、伊藤忠テクノサイエンスでは新規輸入ソフトウェアの日本市場における立ち上げ、その他システム営業、米Itochu Technologyではベンチャー投資事業に従事し、2000年、伊藤忠テクノロジーベンチャーズを創業。日本のIT関連ベンチャー企業への投資事業に従事。
-----------
1996年、小樽商科大学商学部卒業、NTTデータ通信(現 NTTデータ)入社。公共システム事業本部にて、官公庁向け大規模システム開発に従事。2001年、技術開発本部へ異動。海外VC投資プロジェクトの立ち上げに従事。2003年、ビジネスインキュベーションセンタ(現 ビジネスイノベーション本部)へ異動。新規ビジネス創造、社内ベンチャー制度も兼務。社内新規ビジネス創造ファンド立ち上げ、運用に携わる。法政大学大学院、イノベーションマネージメント研究科講師。札幌学院大学大学院 地域社会マネージメント研究科 講師。
-----------
1996年、東京大学法学部卒、通商産業省(現 経済産業省)入省。地域経済政策に従事した後、1998年より大臣官房にて中央省庁再編プロジェクトに携わる。2000年から電子政策課に配属されIT政策を担当。e-Japan戦略立ち上げ、電子商取引関連立法、知的財産権関連ルール、ネットビジネス関連ルール整備などを企画した後、2002年より現職。ユーザー・ベンダー・流通などの各側面からITサービス、ソフトウェア政策全般を担当。

プロダクト型ベンチャーに勝機あり

河野:伝統的にはエンタープライズソフトウェアのビジネスモデルには大きく4つあると言われてきました。1つは従来型のパッケージモデルで、多額の研究開発費がかかるけれども、1つのソフトがヒットすれば非常に儲かるハイリスク・ハイリターンのモデル。1990年代のMicrosoftがこれにあたります。2つ目がパッケージソフトにカスタマイズを加えて業務特性に合ったソフトを作るモデルです。従来の作り込み型とは違って、あくまでもパッケージを中心にしながらカスタマイズやサービス部分でお金を儲けていくものです。

 3つ目はSIerと呼ばれる受託系のモデルで、下請構造を利用して様々な事業リスクを吸収して収益を上げるモデルです。4つ目は派遣下請モデルで、多くの中小企業が入り込んでしまうパターンです。

 これまでのベンチャー企業の戦略は派遣事業から何とか脱出してパッケージ開発のほうに重点をおこうというものが主流でしたが、これらの4つのビジネスモデルも最近変化が見られるように感じます。このセッションでは、「未来を語る」というより、現実的な視点から、何らかのコア技術をもつ企業の成功のためのポイントを大まかに議論できればと思います。

 まず中野さんに伺いたいのですが、SIerのビジネスモデルは厳しくなっていると言われます。プロジェクト管理リスクも高くなっていますし、これまでのようにハード・ソフト・サービスを一括提供することでリスクを分散し、ハードで利益を出していくという手法が通じなくなってきている。こういった中でベンチャー企業はどのようなポイントでビジネスチャンスを見いだすことが可能でしょうか。

中野:SIerから見ると、確かに今までに比べてリスクに対する利益は少なくなっています。ハードだけでなく、データベースなどの汎用ソフトについても利幅が減少しています。つまりアプリ開発のリスクに対し、ハード等の利益でバッファーを取っておく事が難しくなってきているため、大きなプロジェクトを受注したSIerはできるだけアプリ開発の部分を縮小したがっている。例えば要件定義の失敗によるアプリ開発の手戻り等を避けるためにパッケージソフトを使う傾向があります。この環境の中でベンチャー企業にはパッケージそのものを提供するプロダクト型にチャンスがあると言えます。

 また、SIerといってもすべての人材が揃っているわけではないので、付加価値が高いはずの事業分析、上流工程などを下請けに出してしまう企業も散見されます。そういった技能のあるベンチャー企業にとってはチャンスだと思います。

システムの機能追加が狙い目

河野:より具体的に見ると、アプリケーションレイヤーで顧客の業務特性に応じたプロダクトを提供するモデルで成功している企業はいくつかあると思うのですが、関根さんから見てどういったモデルに今後の成長可能性が期待できそうですか。

関根:SIerは儲からなくなってきていると言われますが、大規模のSIは収益を確保できます。利益率は悪いですが。ただ、儲かるモデルというものがあります。アプリケーションやミドルウェアなどをゼロから作ると赤字になることが多く、更改時はハードと組み合わせることで帳尻を合わせています。しかしできあがったプラットフォームの上に機能を追加する場合であれば、ソフトウェアだけでも収益を出せます。例えば官公庁のシステムは定期的に法改正があって、その度にシステムを変更するわけですから、意外と機能追加のタイミングは頻繁に訪れます。

 ベンチャー企業ならばこの機能追加の部分を狙うべきでしょうね。法改正などのマクロ的なトレンドをきっかけにして、次に何が来るのかを読む。そういったときにはシステムが部分的に変わりますから、そこに入り込むチャンスはあります。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]