ベンチャー経営は大きすぎるリスクを負い始めた--ライブドア事件が示したもの - (page 2)

 1と2について、監査法人も止められなかった、あるいはその危険性を指摘できなかった、あるいはそもそもグルだった、といった仮説をとることができる。今回認定された意図的な悪意が存在し、それに結果的に監査法人も加担したという場合を除き、もし止められなかった、あるいは指摘できなかったとする場合、そのプロフェッショナルとしての判断はどこに求められるべきで、そしてそれでも過失が生じてしまった場合、どのような責任を問われることになるのだろうか。これを企業の「外部に対するシステム・リスク」と言っておこう。

 次に、今回の判決は、「1と2は意図的なものだが、3について経営責任こそ堀江被告は問われるものの主導はしていない」という認識により、求刑4年に対して2年半という実刑を科した。これは経営者が果敢なチャレンジする(時として、法整備されていない領域に対して進出する、あるいは業界の通例を破ることで既存の事業者に結果的にダメージを生じさせる)ことに対して、ネガティブな風潮を作りかねない。

 それでもこういったチャレンジをしていこうとすると、「外部のシステム・リスク」をある程度まで認識したとしても、それを社内でどのように説明しているかという問題が発生する。特に、今回の事例のように、担当者が経営者に対して提案し、実施への承認を得る過程で起こりやすい。この過程では、社員や役員の悪意や無知によって発生したものも含むことになり、経営者にとって「内部に対するシステム・リスク」をもたらすことになる。これによって、過失が犯罪となり、経営者に対して実刑として課せられるものとなってくるものであるとしたら、その影響力はすさまじく大きいことになりかねない。なぜなら、あくまでベンチャー経営のリスクとは、本来、金銭的なものでしかなく、あくまで刑事罰を伴うものではないからだ。

 これらは、社会の仕組みとしてのシステム、あるいはその下位的な存在としての企業というシステムとして、完全にはリスクを分離できないことから生じてくる。加えて、これらのシステム・リスクは、ある程度まで強い権力を有したものの意図によって動かしうるという点で経営や経済よりも上位のシステムの影響を受けることになる。これは、この事件の背後に何らかの意図があるのではないかということが、依然として言われ続けることを指している。

ベンチャー企業経営はリスクなのか

 今回の判決に見られるようなさまざまなリスクを目の当たりにすると、ベンチャー経営などしないほうがいいのではないか、という議論にもなりかねない。また、小さなままで好きなことをやっていればいいのだという、ベンチャー企業を否定し、かつ零細・中小企業を礼賛する者も出てこよう。

 ただし、「外部に対するシステム・リスク」やメタなシステムの影響は果敢なチャレンジに対して大きく現れるものの、依然として「内部に対するシステム・リスク」は小さな企業であっても存在し続けることは厳然とした事実だ。

 前述した公文先生との会話の中で、超臨界状態が継続することの理由として、「出る杭は打たれる」といった故事を掲げ、足を引っ張り合い、新たな相への移行を拒む傾向が日本という社会には強いからだ、という指摘も先生はなされていた。これは「過剰な慣性(状況変化に対して対応すべきものにもかかわらず、現状と同じ対処を継続してしまうこと)」と呼ばれる構造の変化を妨げる働きが、社会システムそのものに内蔵されているためだと考えられるが、あまりにもそれが日本では強すぎるのかもしれない。

 一方で、形式的にリスクを低減するために、過剰なくらいの仕組みの導入を促し、結果的にがんじがらめに縛り、そのリスクの吹き出し先を経営者に特定させることで、問題を解決したことにしてしまうのは、いかがなことか。それは、結果的に問題の先延ばしを肯定し、結果、より痛みを伴う対応が必要になるだけだ。

 技術や環境の進化を内在させたものを社会に対応させるための仕組みとして企業活動は存在する。さまざまなシステムの複合体にもかかわらず、すべての責任が経営者にのみが集中してしまうというのであれば、それこそそんなリスクととるものはよほどの変人ばかりになってしまいかねない。

 加えて、ライブドア問題の結論が、控訴の結果、最高裁まで行くとしても、地裁での実刑判決から連鎖して拡大するであろう株主訴訟が、堀江氏らにとって大きなインパクトを生じさせることは間違いない。そのため、もしものことを考えると、変人でありかつ金持ちでない限り、経営などできないことにもなってしまう。

 今回の判決が「金拝主義者に天罰が下った」といった表面的なものとして受け取られることなく、長期的な視点から何をどうすべきかを、具体的には前述した外部と内部のシステム・リスクの低減を、ただやみくもな制度厳密化以外の手法の1つとして議論すべきではないだろうか。

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