仮想世界に「現実」を作り出したSecond Lifeは日本で成功するか - (page 2)

 Second Lifeの内部世界では、リンデンドルという独自通貨が流通しており、インワールドビジネスと呼ばれる多種多様な起業が奨励され、そこで創作、開発された様々な知的財産はその創作者や開発者に帰属することが約束されている。

 そこでの取引を現実世界とどのようにリンクさせるかは別にしても、3Dコンピュータグラフィックス(CG)でできたユーザーの仮想世界の分身(アバター)が、現実世界の身体とは別の性別や嗜好、職業、行動を許されるというだけで魅力的に感じる人も多いに違いない。特に、ゲームとはあまり縁がない人であっても、MMORPG特有のルールというより現実社会に近い感覚で参加できることが、人気の秘訣になっているのだろう。

過去の仮想世界サービスとの違いは

 インターネットの歴史の初期から、アバターを用いた仮想空間コミュニティサービスのアイデアはいくつもあったし、実際に様々なサービスが提供された。が、いずれも成功にはたどり着けず、そのはるか遠くで挫折したケースが多かったと言っていいだろう。それらの多くは、単純に3DCGで構成される仮想世界での経験と、そこで偶発的に近い確率で生じるであろう「コミュニティ」を売りしていた。

 それら過去の仮想世界サービスは、もちろんPCのパワー不足、インターネットの帯域幅の狭さなど、当時の貧弱なインフラに起因する「仮想体験」の安っぽさが問題だったという指摘もあるに違いない。だが、それ以上の問題は、「人々が集まればコミュニティが自然に生じる」といった根拠のない安易な発想を前提としたことであり、結果、一種の技術的実験でしかなくなってしまったのではないか。

 それは、その直後に訪れたBtoBマーケットプレースの失敗要因とも共通する。場所としてのマーケットプレース(一種のメディア)と、そこに参加するユーザー、そしてそこでの取引する商材(コンテンツ)と簡単なルール(モデル)を設定したものの、そこでの取引が活発化しなかったケースは多い。リアルの市場取引のように、その内部で売りと買いのプレーヤーが相対取引だけをするのではなく、本当の需要はないものの、いったん必要以上を買い付けて流通をコントロールするなど単なる売買とは異なる役割を演じるプレーヤーの介在によって実際の取引リスクを最小化するといった複雑な生態系を用意しなかったことが原因だ。

二重化した構造にみるデジャヴ感

 その点でSecond Lifeは、その体験の構造だけを「現実-仮想」という形にするのではなく、提供するサービスの内部世界で参加するプレーヤーが自由に事業を起こすことを認めるプラットフォームとして、構造を二重化している。すなわち、サービス運営者がサービスを用意するのではなくユーザー自身がサービスを提供し、そのサービスが豊富になればなるほど内部での貨幣流通量を大きくする設計がなされている点が興味深い。サービスのデザインが過去のアバターという技術のみを売り物にしたものとは異なっているのだ。

 1980年代にサイバーパンクと呼ばれる仮想世界をテーマとしたサイエンスフィクション(SF)小説が一世を風靡したことがある。ウィリアム・ギブスンやブルース・スターリングが、そのジャンルのヒーロー作家だ。彼らは、コンピュータネットワークの無味乾燥な世界を無味乾燥なままに記述することなく、そこでの怪異や様々な役割を演じるプログラムを擬人化するなどして仮想世界に物語性の高いモデルを持ち込み、現実の世界以上にリアリステイック(=ハイパーリアル)な世界に仕立て上げることで一大ジャンルを打ち立てるのに成功した。

 Second Lifeには、過去の「器」だけを用意した仮想世界コミュニティではなく、サイバーパンクが語った仮想世界のデジャヴ感がある。必ずしもアバターという視覚的な存在が必須ではなく、内部世界で二重化された構造が整備され、RMTのような形式になるかどうかは別としても内部で独自の生態系が成立し、やがて内部と外部の世界が複雑に交錯することが重要な要因であることは間違いない。

 とはいえ、日本の消費者はmixiのようなSNSで比較的現実味のある関係性を、匿名性を確保しながら、時に携帯電話で10分おきにチェックすることすら楽しめることに重きを置く。はたして、西海岸生まれの、現実を二重化した構造といえどもリアルすぎるサービスはどのように受け入れられるのだろうか。興味深い。

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