ソフトバンクの次なる一手は何か - (page 2)

 背景には、3月の発表に先立って急激な体制変化を受け止めながらも、導入を実現させた旧ボーダフォンや端末メーカー関係者の、まさしく「プロジェクトX」的な努力があったに違いない。その努力は実ったと言っていいだろう。ここまでのラインナップを絶妙のタイミングで発表できたことは、大いにプラスの影響が出ているといっていいからだ。

 すでに、いくつかのニュースやコラムなどでは、「期待以上」といった表現で「MNP導入後、ジリ貧に陥るとみられていたが、明らかに先行する2社と互角。混戦が予測される」とする意見が多く出ていることを見ても、少なくともこれまの「お手並み拝見」的なスタンスではなくなっているからだ。

可能性は大いにある

 どうやら、世間的にはソフトバンク、あるいは孫社長の発表や発言に対しては、ちょっと引いた感じで対応するきらいがあるようだ。確かに、これまでのソフトバンクのやり方を見ていると、その発表などに対していちいちまともに反応していても仕方ない、という学習がなされても仕方ないところはあったろう。しかし、今回の発表は現実味を多いに伴っており、あいまいな表現で話題性だけを高めようというといったうがった意図は感じられなかった。それだけ真剣なのだ、という気迫さえ伝わったほどだ。

 客観的に見ても、NTTやKDDIなどが純粋に通信会社というスタンスでいるのに対して、総合情報産業という視点から通信サービスを提供していくことを明確化させているソフトバンクは、少なくとも今後しばらくの間、技術だけではなくサービスという点において優位に立てる可能性がある。たとえば、通信事業と言うだけではなく、特殊会社としての鎖につながれているNTTグループなどとは違い、コンテンツに対してYahoo! JAPANやガンホー・オンライン・エンターテイメント、アジアングルーブなどの周辺会社を通じて間接的に、あるいは直接的にリーチできることが可能なソフトバンクは、そのラインナップには偏りはあるものの、スピード感をもって今後の変化の流れを作り出せるからだ。

 その延長上に、すでに開始しているIP映像コンテンツ配信会社「TVバンク」とその提供サービス「Yahoo!動画」以外の、例えば有線放送事業者や衛星放送事業者、あるいは地方局をつないだシンジケーションなどの放送関連サービスへと、そのコングロマリットを広げることには何の支障もない。以前、オーストラリア/米国のNews Corporationと共にテレビ朝日買収を試みたこともあるソフトバンクだ、その可能性は十分に視野に入っているに違いない。

一抹の不安

 とはいえ、危惧するところもないわけではない。例えば、出資比率が十分ではなくなっているYahoo! JAPANなどとの関連性。あるいは、孫社長自らがいうところの「タイムマシン経営」の妥当性などだ。とはいえ、ここで前者に関しては、あえて言うこともないだろう。

 後者に関して懸念しているのは、必ずしも海外で成功したサービスが、すべての領域において日本という消費最先端国で通用するとも限らないからだ。例えば、今回のYahoo!ケータイのように、いわゆる「向こう側」のサービスを、鎖国状態であった携帯電話サービスのふたを開けて結びつけ、一貫させることは大いに意義がある。だが、それだけでは利用者のメリットはどれほどに拡大するかは未知数だ。

 そもそも、携帯電話とPCインターネットのヘビーユーザー層は異なり、アンド条件の効用を享受できる層は少ないかもしれない。携帯電話からも「向こう側」をのぞける仕組みはほしい。だが、それ以上に「こちら側」とのパイプとして機能し、さまざまな現実生活から生じる情報を「向こう側」の情報と自動的にマッチングさせることで生じる新たな価値(僕はこれをNet 3.0といっている)を提供することこそが重要ではないか。

 以前、報道されたように米国最大級のソーシャルネットワーキングサービス「MySpace」の日本進出を支援し、そのサービスを携帯電話と結びつけることができれば、携帯電話とPCとで異なる体系にあった音楽配信の仕組みもひとつになっていくに違いない。これは単なるタイムマシン効果だけではなく、付加的な価値を創出することになるだろう。(若干上記のNet 3.0的なベクトルとは異なるものの)結果的な価格低下の促進や、現在は偏りがある配信可能楽曲の制限に緩和が生じることが明らかだからだ。

 いずれにしても、ソフトバンクが通信三強の一角を担う地位に就いたことは明らかであり、その劣位はそれほどでもないのではないか、という認識を今回広められたことの意味は大きい。また、通信という市場に拘らないスタンスが持つ意味も大きい。だからこそ、その固有の可能性を最大化する戦略を明らかにし、ソフトバンクのブランド信仰者を増やすこと。それが、重要になりつつあるのではないか。

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