番号ポータビリティで携帯電話業界の再編は起こるか - (page 2)

利用は10%程度にとどまるが

 すでにMNPの認知が高まってきた最近の状況下での調査では、MNP導入以降で利用したいと答える人の割合は10〜20%程度の結果だという。この数字が多いと思うか、少ないと思うかは人によってかなり違いがあるだろうが、少なくともMNPを導入することで5〜10人に1人は満足を得ることには違いない。

 また、通信事業者は総務省主催の研究会へ通信事業者間での番号ポータビリティ運用システムの開発と運営に1000〜1500億円程度が必要というレポートを提出し、それをすべて利用者(2003年11月末で7964万2000加入)負担するとしたら2000円程度が必要との見解を示した。が、唯一MNP利用手数料を開示したKDDI(au)は、新規にauを利用する場合は無料、反対にauから他社に出て行く場合の費用は消費税込み2100円としており、仮に10%程度の利用があったとして1万4000円程度は通信事業者の負担となっていることになる。

 7月現在の加入者9325万3000万加入に、MNP開始の10月24日までに増加する加入者数を前年同時期と同じ増加数(82万9200加入)を加えた9408万2000加入をMNP対象加入者の母集団とし、かつMNPのシステム開発と運営に必要な全費用は変更ないものと仮定した場合、全加入者1人当たりのコスト負担は1600円程度となる。10%が利用したとしたら、その費用は1人当たりの10倍=1万6000円であり、うち2000円を加入者負担としているため、差額の1万4000円は事業者負担になっていると考えられる。

 ここから読み取れるのは、本当は避けたかったMNP導入であっても、いったん導入が決まってしまったのであれば、積極的に活用し他社からシェアを奪おうという通信事業者の姿勢だ。あるいは携帯電話所有対象人口(約1億人)のほぼ9割が携帯電話加入者となっている現在、新規顧客開拓コストよりも、MNPに関連した費用負担のほうが安いという可能性もあるだろう。

 もしそうであれば、「できれば避けたかった」という状態を反映した現在の利用意向が、事業者が行うキャンペーン次第で10%以上に膨らむ可能性もあるかもしれない。

すでに始まっているMNP商戦だが・・・

 いずれにしても、もうすでにMNP前哨戦は始まっていると考えたほうがいいだろう。すなわち、家族割や長期利用割引、料金繰り越しなどの新たな割引料金プランの導入だ。家族全員を1つの通信事業者の加入に揃え「イチ抜け」を困難にしたり、繰り越した残額や割り引きがあるという「もったいない」感を煽ったりするなど、MNPで敷居が下がる事業者移行をできるだけ困難にするという施策だ。また、前回のコラムでも指摘したとおり、法人での大口割引導入などにも、この方策は当然反映している。

 もちろん、これら施策は事業者にとってのメリットばかりではなく、利用者にとってもこれまで「高すぎる」といわれてきた携帯電話料金の引き下げにつながっている。この点において、MNP研究会で議論されていた利用者便益を巡るMNP導入の意図の一部(全体料金の引き下げ)は十分に実現しているといえよう。

 しかし、それだけではまだ不十分だ。まず、端末交換費用が利用期間に応じて変わるという一種理不尽さを感じるものの撤廃や、今回は見送られたメールのポータビリティやPHS番号との連動、そして最終的にはどの事業者でも使える端末の投入やサービスの提供など移動体通信の水平分離までを考慮されるべきではないか。また、米国でSprint Nextelなどが導入を発表したモバイルWiMAXなど、今後日本でも提供される予定の新しい通信サービスとの連携を視野に含んだ更なる環境整備こそが、通信事業者では話題のFMC(固定モバイル融合)に大きな役割を果たすに違いない。

 やはり、MNPによって短期間で順位変動に到るシェア変動は起きる可能性は少ない。しかし、長期的には利用形態がより自由になって、モバイルという独自のサービス領域が「消滅」するきっかけになればと思う。

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