セブン&アイの電子マネー参入に見る勝算

 セブンイレブンやイトーヨーカ堂、デニーズなどを擁するセブン&アイ・ホールディングスが、2007年春をめどに独自方式の電子マネーを発行することを発表した。JR東日本のSuica、ソニーファイナンスやNTTドコモが出資するビットワレットが提供するEdyという先行する2陣営に対して、小売市場で圧倒的な存在感を持つ同グループだが、さすがに出遅れ感がないわけではない。果たして、セブン&アイの電子マネー参入はいかなるインパクトを生むのだろうか。

存在感のあるプレイヤー

 日本国内に、1万1000店のセブンイレブン、180店のイトーヨーカ堂、600店のデニーズ、国外も含めればグループ全体で3万店以上があるセブン&アイ・ホールディングス店舗(すべて店数は概算)で利用可能な電子マネーが登場する(PDF形式のプレスリリース)。セブン&アイグループの店舗を1日あたり約2400万人という極めて多くの人が利用している。その利点を生かしてこの電子マネーサービスにはポイントプログラムも実装されるという。

 加えて、セブン&アイ・ホールディングスはすでにYahoo! JAPANとの包括業務提携の検討を行っているため(関連記事)、Yahoo!ポイントとの互換性を持たせるなど各種ネットサービスの支払いをセブン&アイの電子マネーサービスを用いて行ったりするに違いない。また、1万台以上のATM設置台数を誇るグループ金融機関のセブン銀行が発行するキャッシュカードとの複合カードの発行に加えて、社外の多くのプレイヤーとアライアンスを進めていくことだろう。

 コンビニという、都市部だけではなく郊外でも十分な存在感をもつリテール事業者の中でも、ひときわ目立つ位置にあるセブン&アイだからこそ、独自の電子マネーの発行に乗り出すという決定を下せたに違いない。セブンイレブンだけに限っていえば、店舗1日あたりの平均来客数や商品取り揃え数、日販額でも、2位以下に大きな差をつけており、その実力は非常にある。実際、セブンイレブンの来客者数は1000名/店、日販は65万円/店であり、2位以下と比べても30〜40%も高く、店舗数だけではなく売上額でもすでに大手百貨店やスーパーとの比ではなくなっている。

CRMがうまく機能しない業種

 とはいえ、人々の活動時間帯が拡大し、インターネットの普及に伴う商品受け渡し場所など物理的なサービス拠点として注目されたコンビニであっても、ポイントカードといった顧客ロイヤリティプログラムなどの導入では、それほど大きな成果を上げていないのが実際だ。

 顧客がコンビニを利用するのは「コンビニエント(便利)だから」であって、決してロイヤリティがあるからではない。コンビニエントの基準は立地条件や営業時間などに基づくものしかなく、この課題に対する正面突破には大きな費用とリスクを伴うものとなる。もうひとつの選択肢として想定されるものには、CRMやロイヤリティプログラムなどの囲い込みにより、コンビニエントであること以上の心理的位置づけを確立するという戦略がある。が、コンビニエントであることが訴求価値の中で大きな位置を占める限り、この囲い込み戦略はなかなか機能しないという課題があった。そして、巨人セブンイレブンといえどもその例外ではなかったはずだ。

 そこで、差別化要因として郵便サービスの取り込みや宅急便の受け渡し業務の追加、銀行ATMの設置や銀行業務そのものといった策が実現されてきたが、依然として「コンビニエント」であることに過ぎなかった。そのため、コンビニエントであり、かつ囲い込みとしても機能する仕組みの導入が急務であったに違いない。

 そんな状況に有効なのは「そこでしか使えない決済手段」であり、具体的には電子マネーやポイントプログラムのプラットフォームとしてのICカードの導入ということになるだろう。電子マネーやICカードは、数年前に産業界から熱い視線が集まったことがあった。が、その話題性に比して普及が伴わなかったのは周知の通りであり、その導入のために必要なコストに比して、リスクが大きいという認識があったはずだ。

 小売業の中で圧倒的な存在感を持つだけであっても、上記のリスクは払拭できないはずで、それにもかかわらずセブン&アイが独自電子マネー導入を決断できたのはどうしてなのか? 

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