「LLPはベンチャー設立に向いている」という説は本当か - (page 2)

ピープル・ビジネス=人的資本中心ということ

 そもそもLLPは参加者(=組合員)が保有する資金を含む資源や技能を生かして、ひとつの事業を成し遂げるために必要な組織として生まれた。

 製造業などこれまでの企業は(土地や工場などの)モノを持ち、モノを中心とする資産勘定=物的資本こそが企業の中核的な価値として認識されてきた。そして、そんな企業のあり方に最も適した形として株式会社の仕組みが整備され、洗練されてきた。

 しかし、時代の流れとともに、特許などの知的財産権やブランドなどの見えない資産(インタンジブル・アセット)、そしてそれらを生み出し、企業を経営するなどの人そのものに帰属するスキルの希少性こそが、今後の情報化社会の成長の鍵となるという発想に移行しつつある。すなわち、「人的資本中心」という考え方だ。

 ちょうど今月配本のダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー10月号で「『ピープル・ビジネス』の経営管理論−人的資本の最大化−」という論文が掲載されている。そこに「『現在における価値創造』と『労働集約型』という2つの要素のアンド条件に当たるのがピープル・ビジネス」という定義がある。まさしくLLPはそのような事業のための組織として構想されているのだ(その背景はLLP/LLCの生みの親である経済産業省産業組織課の労作「日本版LLC−新しい会社のかたち−」(金融財政事情研究会刊)に詳しい)。

 人材が価値創造の中心となるピープル・ビジネスには、収益指標であるROAやROE、あるいはEVAやEPといった設備などの有形資産をベースにしたものは当てはまらない場合が多いという指摘がある。逆に言えば、株式公開のための評価として通常一般に用いられる指標はピープル・ビジネス型事業の現在価値評価には当てはまらない。株価の評価はその成長期待などの「インタンジブル」なものに依存しがちで、その数量把握は極めて困難なためボラティリティ(変動性)の高い株式として見られることが多い。

プロフェッショナルにとってのLLP

 ピープル・ビジネスは、デザイナーやエンジニア、コンサルタント、プロデューサーなどすでにプロフェッショナルとしてのスキルを有した人材=人的資本がそのスキルなどの活用をするための事業であり、「人」に依存することを前提とした事業であると考えれば、継続性が必ずしもあるとは限らない。そのため、法人格を有した通常の企業としての側面を持つよりも、パートナーシップ(組合)として活動したほうが妥当であるという判断は当然あり、そのような状況が近年急速に増加してきた。そのための器としてLLPが用意されたのだ。

 ゆえに、ベンチャーでも「事業として無限の成長を期待する」というスタイルの企業ではなく、「がむしゃらに働くのではなく、自分自身の価値創造のスタイルを模索する」ために有用な器としてLLPは機能する。そのため、LLPは物的な、あるいはブランドなどのインタンジブルアセット(目に見えない資産)を元に事業の成長を目指すための器としては不適なのだ。

 そういう視点でLLPというものをとらえるのが、個人をベースにしたときは妥当であろう。

 ここでは触れなかったが、企業間の、あるいは企業と個人間、あるいは政府や地方自治体と企業/個人との間で事業を興す器としてもLLPは大いに活用可能な柔軟な仕組みでもある。それについては、また別の機会に。

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