ソニーは本当にエレクトロニクス産業の負け組なのか - (page 2)

本質的な提供価値の変更を今こそ

 家電業界では、汎用製品だけではなく、高機能な白物家電や電子デバイスモジュールの分野にも、明らかに中国や韓国の脅威が迫っている。そんな中、住宅向け機器で好調な松下電工を取り込んで良好な業績を掲げている松下電器を除けば、日本の総合家電や電機メーカーは直面する製品のコモディティ化などについてほとんどなす術のない状況にあることは、「家電復活!」と半年前に一面記事を書いたばかりのマスメディアも認めざるを得まい。

 デジタルカメラや薄型テレビ、PVR(パーソナルビデオレコーダー)などが「デジタル三種の神器」としてもてはやされたが、実際は幻想であり、機器そのものに本質的な戦略やイノベーションはなく、単に利用者にとっての若干の利便性向上を大幅に拡大解釈して提供価値を一時的に水増ししてきただけである、という話は以前から繰り返してきた。これらの製品は既存のアナログカメラやブラウン管テレビ、ビデオレコーダーの置き換えでしかないからだ。

 本質的な提供価値の転換を先送りし、ある意味わかりきった目先の課題を解決しただけのこけおどしの戦術ではもう消費者市場に対して歯向かいできまい。他方で、海外メーカーの競合力は高まり、ITや通信、コンテンツといった外部市場のプレイヤーからの圧力はこれまで以上に高まっている。

 家電機器が実質的にネットワーク化され、それに伴ってそれぞれの機器が提供する機能が汎用化され、その内部構造そのものがモジュール化されていくと、機能を統合し小型化や利便性の向上で付加価値を形成するというこれまでの家電の戦略は180度の転換を余儀なくされる。さらに言えば、もし自らがその舵を切っていれば、アップルコンピュータのiPod/iTunesのような脅威の出現を避けられていたのかもしれないのだ。

やり遂げるチカラを

 しかし、ここで過去を断罪してばかりでも仕方ない。

 ソニーの出井伸之前会長は1995年の社長就任後、「ハードとソフトのデジタルによる融合」という将来イメージを「デジタル・ドリーム・キッズ」といったキャッチーなコピーで表現して大いに世界の注目を浴びた。その結果はというと、出井氏の夢は現実にあまり実を結ぶことはなく、潰えたといわれている。ただ、AIBOやQRIOといったエンタテイメントロボット・ジャンルの開拓などは十二分に大きな意味を残したといっていい。

 さらにいえば、他の家電メーカーが言葉すら上げなかった家電へのサービスの取り込みやネットワーク化へ正面から挑戦したという点で、コンシューマー・インサイトを指向したソニーは他にない企業であったといってもいいだろう。ただ、それがあまりにも性急で、実現への圧力に負けて常に組織変更や製造中止などを行いすぎたために、本来あるべき花が咲く時期を逃してしまっていたのではないか。それは更に、社内の知見の集積を困難にし、社員のモチベーションを下げるといった悪循環を生じさせてしまったと聞く。

 出井氏が掲げた多くの議題は極めて理に適っており、正しい問いかけを行っていたと思う。ただ、その実現に至る距離感とマイルストーンの設定が適切とはいえなかったのであろう。「イノベーションのジレンマ」で知られるハーバード大学ビジネス・スクール教授のクレイトン・クリステンセン氏が語るように、問題意識ではなく、戦略の立案と実現の過程に問題があったということなのだ。

 ただ、目標設定そのものが間違っていないであれば、その戦略立案と現実過程こそを見直せばよいはずだ。中途半端に、ものつくりに傾倒しすぎたエレクトロニクス事業の再生などに注力してはダメなのだ。もし仮に、冒頭説明したようなグローバル市場を前提としたプラットフォーム戦略が望ましいのであれば、例えば次世代電話サービスの筆頭であるスカイプ・テクノロジーズとの提携、あるいはその買収を積極的に進め、IP上のボイスメッセージング上にコントロール信号を忍ばせるなどして家電機器の統合を実現するとか、ソニーらしいビジョンとその実現のステップを同時に見せてくれはしないか。

 そして、最も重要なのは、いったんはじめたアクションを早急には終わらせはしないこと。最後まで「やり遂げる」チカラこそ、今のソニーにとってもっとも欠けていることのように思うから。

 ストリンガー新CEOがそのチカラを補ってくれることで、ソニーの、そして日本の家電業界の本当の復活がなされてくれればと、応援団の一人として思うのだが。

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