さて、一応の「決着」に達した今回の騒動だが、始終詳細が見えてこなかったトピックがある。「放送とインターネットの融合によるシナジー」だ。
ライブドアの堀江社長は、「今後、テレビもラジオもダメになる」と発言しておきながら、それらの事業を展開するフジテレビとニッポン放送との提携や所有を目論んだ。これら放送事業者の現在の名目価値は依然として高いが、すでに広告のみの収入は減少傾向にあり実質的価値は決して十分なものではないことを考えると、矛盾した行為に映る。
あえて解釈すれば、放送事業者に特有の「ステーション」ブランドというインタンジブル・アセット(形がなく、単純には査定できないが、競争優位に貢献する資産)や、番組など映像コンテンツの生産力、あるいは過去の作品のアーカイブなどに価値を見出した、ととらえることもできなくはない。
また、「ライブドアのポータル事業を強化するために、放送局を活用したい」といったところで、株主でもテレビやラジオの事業を私的に活用することは許されない。そもそも、放送局には番組に関する事項を第三者が監督する委員会という仕組みが存在するし、そもそも売り物である広告枠やインターネットのリンクなどを株主が勝手に押さえたら、事業収入が減少してしまうため、あまり賢いやり方とはいえないだろう。プラスのシナジーどころか、マイナス、そしてコンプライアンスにも抵触しかねない発想だ。
では、インターネットに親和性の高い番組を企画し、その付加価値を生じさせることでスポンサーから更なる広告費を得るといったように、インターネットとの連携を強めながら収益を拡大することは可能だろうか。これについては、イエスだろう。ただし、依然として疑問が残る。このような挑戦であれば、必ずしも買収までする必要はなく、1社提供で番組を買い占めればよいだけのことだ。特定の放送局そのものを大枚はたいて買うよりも、複数の放送局の番組をいくつも押さえた方があらゆる意味で効率がいいに違いない。そして、そもそもそこまでしてインターネットに視聴者を導いたとしても、視聴者にとってどんなメリットが生じ、かつインターネットサービス提供者にとっての経済メリットが発生するのだろうか?
テレビ放映などの対価として払われる、異常とも思えるほど高い広告費は、マスへの情報撒布を前提としてコストパフォーマンス的に正当化されている。一方、インターネットはごく少数の限られた、かつ動機付けされている訪問者への具体的な効果の発現によって対価を得ている。テレビと連動したところで、ネット広告の価格がテレビと同レベルにまで高騰するとは限らないのだ。この異なる性格の商品の組み合わせをどうするか?
見えてこない点は数多い。
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