もうひとつのケータイ先進国を知る - (page 2)

 コポマーが『ケータイは世の中を変える』で指摘しているように「社会的な成功者や上流階級に属する人たちが、社会的地位の低い人々に対して自分たちの新しい持ち物を繰り返し見せつける行為(P.5)」としてケータイの普及はどこの国でも始まる。価格的な問題も当然あるが、表象的・象徴的な意味合いが大きいことも事実だ。そして同様に、街の中での利用に対する反応や、テキストメッセージングのように、通話装置としての携帯電話をプラットフォームとして利用した新たなサービスに対する欲望の形成のされ方などは、少なくともフィンランドと日本では非常に似通っているという印象を受ける。

 しかし、そこからの対応は国によって異なってくる。

初動は等しく、対処は異なる

 いかに初期的な反応が類似していても、それに対する社会や企業の対応の仕方は異なり、結果として異なる文化や市場、製品、サービスが形成・開発されるようなのだ。実際、寡黙で小心な人種とみなされているフィンランド人は「ヨーロッパのアジア人」と例えられるほどで、他の欧州文化と比べて日本と質的・性格的に近いと指摘する人がいるほどだが、フィンランドでは「iモード」も「ケータイ・ストラップ」も生まれなかった。(もちろん、着メロや待ち受け画面など、共通して人気のあるサービスもたくさんある)

 同じ携帯電話というサービスであっても、異なる文化や市場が形成されている。この違いはどこから生じたのだろうか。

 「そりゃあ国が違えば、違う製品やサービスが生まれるに決まっている」といえば、その通りかもしれない。だが、それは思考停止を早々にしすぎている。考えてほしい。携帯電話はどの国でも一大産業となっており、相互にサービスは接続され、果ては事業者の合併や買収すら行われているグローバル産業だ。当然、国ごとに別のサービスを提供していては元が取れないから、何らかの形でサービスを共通化しなければならない。そこで、何を共通化の基準とするのかが問題になってくる。

 国際展開を狙わなくても新たなるサービスを開発するためにもこの視点は有効だ。例えば、日本という物理的にはひとつの市場であっても、利用者のカテゴリー別に訴求要素は異なってくる。ニッチに行くのか、マスを狙うのかという商品・事業の全体戦略を策定するうえでも、ニッチのインフルエンサー(影響者)を押さえてから全体へと影響を広げていくというマーケティング戦略の立案には欠かせない視点なのだ。

 どこで線を引くのか。それを知るためにもケータイの事例、特に日本以外の先進国、それもケータイ元祖ともいえるフィンランドの事情は参考になる。

 もちろん自動車や家電製品、あるいはハンバーガーや清涼飲料水のように基本機能はどこに行っても変わらない製品では、それほど困る問題ではない。しかしケータイは、すでに基本性能を提供するインフラとしての「携帯」電話ではなく、通信以外のさまざまなサービスを取り込んだ「一種のプラットフォーム=ケータイ」となっていることからもわかるように、何を取り込み、何を省くのかが重要な戦略の立案につながってくる。

 比較的万国共通の初期における人々の対応に対して、フィンランドではどのような対応がなされたのかは、本書で著者コポマーがたくさんのインタビューなどの調査を経て記述している。まずは、それと僕らが知っている日本での対応がいかに異なっているかを整理することが必要だろう。そのうえで、結果としてどのように異なるサービスが生まれたかを分析するのは、どんな読者にとっても楽しい作業になるにちがいない。

異なるサービスは文化よりも産業構造に依存する

 もちろん、コポマーはその答えを用意してはいない。僕も仮説的なものは思い浮かぶのだが、まだそれは検証していない。

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