統合通信サービスはどこに向かうのか:ソフトバンク・日本テレコムの明日 - (page 2)

新たな成長の糧が多くある

 現在、NTTグループ、KDDIなどの通信事業者は、通信とITサービスの統合ソリューションに積極的に資源を投入している。日本IBM、プライスウォーターハウスクーパースのコンサルティング部門(PwCC)とITコンサルティング畑を歩んできた倉重氏に率いられることになった日本テレコムは、リップルウッド傘下になってからの人材獲得状況や法人顧客の上質さからいっても極めて有利な立場にあるといっていいだろう。

 通信事業者は、これまで「通信の秘密」に触れかねない通信内容には立ち入らないという絶対の掟に縛られてきた。しかし、携帯電話のiモードに始まるプラットフォーム・サービスによって、インフラ上のアプリケーションとコンテンツを分離し、アプリケーションまでなら通信事業者が介入してもいいことが証明された。今では、その領域にまで進出して顧客の需要を満たし、収益を生むことを経験することで、その呪縛から解放されつつある。また、通信事業者が介在することで、BtoC事業を営む法人の社内向け業務アプリは、そのままYahoo! JAPANなどソフトバンクが抱える国内最大のリーチを誇る消費者フロントへと直結することが可能になり、新たな価値が生まれるだろう。そのためには、Yahoo! JAPANというポータルの仕組みが有効に機能するのではないだろうか。

 加えて、現在、政府で導入が議論されている第3の3G携帯電話という、さらなる成長の機会がソフトバンク・日本テレコムにはある。ソフトバンク(TD-CDMA)とeAccess(TD-SCDMA(MC))の両社が検討を進めているTDD(時分割複信)系という規格は、ADSL的な定額広帯域の移動体無線サービスを可能にし、固定系ブロードバンドをそのまま持ち歩くような感覚で利用できるようになると期待されている。これらはADSLの延長上で消費者向けとしてとらえられる傾向があるが、実は移動体通信は法人向け通信に必須のものとなっていく可能性が高いのだ。

 TDDは通話にはあまり適さない規格であること、導入は早くて2006年末であることなど、課題も多く一筋縄ではいかない。しかし、法人の特定用途であれば比較的高額な携帯電話通信料金であっても格安で利用できるKDDIの「OFFICE WISE」など、モバイルセントレックス(携帯電話を内線として利用可能にする仕組み)の需要が現在高まっていることを考えれば、社内電話を携帯に置き換えるトレンドも急速に強まる可能性がある。その点でも、TDDに限らず移動体通信サービスをメニューに取り込むことが、当面、法人向け通信サービスでは必須になるだろう。

  また、個人向け移動体通信も、「従業員という個人」(あるいは、その家族)の利用が過半数を占めるととらえれば、法人向け通信料金相対取引の開始とMNP(番号可搬性制度)の導入によって、法人向けサービスに組み込まれる可能性が高い。そう考えれば、通話プラスアルファの現状のような携帯電話ではなく、広帯域データ通信にも強い、業務にも十分利用可能な高性能の携帯電話が望まれる可能性は高くなるだろう。これは明らかに成長領域となる。

 仮にTDDでなくとも、例えばPHS事業の獲得も十分に考えられる。また、万が一Vodafoneの日本撤退が現実になれば、その事業を買収するにしても同じ根を持つ日本テレコムがあれば相性がいいだろう。これらもすでにソフトバンクにとってはオプションとして考えられているに違いない。そうなれば、PHSの場合、DDI系(約290万加入)、アステル系(約63万加入)と規模としては悪くない。ましてやVodafone買収ともなれば携帯市場の18%(約1500万加入)を吸収し、現在のKDDIグループを追い抜く勢いにもなるだろう。

図1.ソフトバンクの日本テレコム買収によってさまざまな効果が期待できる

統合通信とは何を目指すのか

 こうして個別に領域を見ていくと、ソフトバンク・グループと日本テレコムのタッグはシナジー効果がありそうだ。ただし注意すべき点は、組み合わせによって新たな価値を創出するというよりも、お互いに持ち合わせていない事業内容を互いに出し合ってメニューを豊富に見せたり、重複する事業を合計したりすることで、張子程度の規模のメリットを生じさせるレベルに過ぎない、ということだ。

 そもそも、法人向け通信やソリューション・サービス、消費者向けADSL接続やこれらのサービスを単にパッケージ化しただけではあまり意味がない。それどころか、異なるターゲットや製品・サービスを無理やりに組み合わせることで、顧客心理が遠のく「ブランド合成の誤謬」さえ生じかねないだろう。ブロードバンドの世界における「統合通信サービス」というものを具現化して世に問わない限りは、期待されている成長が急速にしぼむ可能性があるのだ。

 またか、といわれても仕方ないかもしれないが、ここで期待したいのはソフトバンクがお得意とする「ビジョン」の提示だ。法人・個人をITソリューション&ポータルで横断連結し、有線・無線を縦横に駆使する広帯域サービスで従業員や消費者を取り込む。

 固定系はすでに、そしてモバイルですらコモディティ化と定額化による収益急減の流れから逃れられないとされる通信事業者の運命を、変えることができるか。その最終イメージと、そこに至るロードマップをいかにして描くことができるのか。TDDかCDMA2000か、あるいは無線LAN+PHSかといったオプションの取捨選択は、このビジョンとその時々の状況によって行えばいいのではないだろうか。

 Yahoo! BBの現状を考慮すれば、今回の日本テレコム買収によって得られたソフトバンクの地位は非常に高い。むしろブロードバンド&モバイル先端国となった日本のあるべき姿を語ることが半ば義務となったのではないか。

 確かにソフトバンクには、個人情報漏えいやそれにまつわる内部オペレーション、従業員の倫理など企業/サービス・イメージの低下につながる内容の露呈があった。それを払拭するために日本テレコムを買収したという説や、日本テレコムの顧客や事業資源を一挙に獲得することで、上昇する一方のYahoo! BBのマーケティング・コストを圧縮するという解釈がある。もちろんこれらの効果を否定はしないが、それだけではないだろう。

 それよりも、2001年のYahoo! BB開始当時から孫社長が語っていた「NTTに対抗するような通信事業の実現」の可能性を追求する機会として、言い換えれば新たな通信の訴求価値を作り上げるための布陣のひとつとして日本テレコムの買収があったと見るほうが妥当ではないだろうか。

 今後、「通信によって3年後のあなたの生活はこうなる!」といった明快なビジョンを打ち出す様子が見えないNTTやKDDIに先行して、ソフトバンク・日本テレコムのタッグが「価値創出のための通信サービス」の具現化を促進することを期待したい。

 孫さん、再び夢を語るタイミングだとは思いませんか。

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