NTTドコモの506iが示すFOMA戦略の迷走

 NTTドコモが506iシリーズを発表した。50xシリーズを実質的にFOMA 90xシリーズと並列化するという選択は、セグメント別マーケティングの戦略としても厳しい。しかしそれ以上に、ケータイが今や通話やテキスト交換以上の機能にこそ訴求価値を得ていることを考えると、新たなケータイの位置付けを行うというマーケットリーダーに求められた行為を先送りしているだけに見える。これはライバルとの距離をますます狭める結果になりかねない。

  ドコモは本来、利用可能な電波帯域が手狭になったという理由から、増えすぎたPDC利用者をFOMAに移行する必要があった。そのために、ヘビーユーザーからFOMAへの移行を促進するという選択をしたはずだ。多機能高性能端末の利用者にヘビーユーザー比率が高いのであれば、現状のハンドセットラインアップには説得力が出てきそうなものだが、そうでもなさそうだ。

  本来的には、「PDC帯域が混雑している」ため、まず「利用量の多い顧客から移行」というのが効率的だ。だからこそ、パケット料金などで有利な価格を出している。であれば、ヘビーユーザーに対するアプローチが重要で、価格以外の誘導要因は端末なのだから、目的に合った端末を発売することが望ましい。

  しかし現状では、単に新モノ好きだけれど、リスクは避けたいというアーリーマスに対するアプローチになっている。彼らはある程度ボリュームゾーンだが、利用形態の開発などではリーダーシップを取れない人たちであり、今般的なマーケティング戦略のABCからみれば「木を見て、森を見ず」的な選択をしているようにしか見えない。

  FOMAとPDC(2GHzと800MHzの両帯域)でのすみ分けをさせたほうが、今後、料金プランなどで楽だろうと思うのだが、あえてそうしていないのはなぜなのか。なんだか、そのあたり「NTT」というよりは「電電公社」的な平均重視の発想に思えてならない。

  利用者セグメントに応じて、かつての25xと50x同様の構図で、更なるハイエンドとしてFOMAを位置付けるのであれば問題ない。しかし、機能的・性能的に50xと若干の差しかなくなっているのであれば、そのすみ分けがはっきりしないし、そもそもFOMAへの移行を推進するという目的にはあまり適合しない。いっそauのように、同じサービスライン(CDMA1x)の中で機能的な強弱をつけ、旧サービスラインアップの製品投入をやめれば、利用者移行を滞りなく行うことができるだろう。

  実際、ドコモは新規サービスの導入を上記のauのような手法で大成功させてきた実績がある。iモードだ。その成功の背景には、機種変更の短期間化が進行する時期にすべての投入製品をiモード対応にしたという、一種の「強制普及」施策を取ったことが挙げられる。利用者の積極的・意図的な「iモードの発見」を機種変更前に行わせるよりも、機種変更後に、利用者にとってメリットがあることと同時に行わせたほうがいいに決まっているからだ。

  また、同時並行した製品開発は、すでに疲弊しつつあるハンドセットメーカーの体力をいよいよすり減らす結果となるだろう。

単純な多機能化はもはや通用しない

 もう1つ言えることは、単純な多機能化は成長期の戦略だということだ。多機能化の目的は話題性の獲得による利用者の拡大にあった。しかし幼児学童と高齢者を除いた層のケータイ普及率が9割近い現在では、そこに金をかけること自体が間違っている。

  例えばデジカメの搭載(特にメガピクセルなど、通信では送れないほどのファイル容量になってしまうもの)は、長引きつつあった機種変更期間の短縮を促進しただけで、通信事業者にとっての直接的なメリット(パケット通信料の拡大)はなかった。極端な話、販売促進費で端末原価を補てんしてまで、利用者に高性能デジカメを配っただけだった、といわれても仕方ない。

  間接的に、ケータイのパーソナルマルチコミュニケーター化を促進させ、常に身辺から引き離さずに、重要な個人データ(認証データだけではなく、電話番号帳、通話履歴、行動履歴なども含めたもの)を全て集積するツールとして利用者に認識してもらうという点では、効果的だったかもしれない。だが、そのポジションを利用した収益の確立への道筋はまだはっきりしていない。定額化への道筋が明確化された現在、プラットフォーム化こそが残された道であることは明らかだが、それをはっきりさせないことにはいかんともしがたい状況に追い込まれる。

  ドコモは単にヘビーユーザーをFOMAに移行させるよりも、新しい使い方を提案する次世代環境としてFOMAを位置付けるべきではないだろうか。現状の利用状況をベースにしたマーケットセグメントにちょっとした提案(そして無料奉仕)を行うハンドセットラインアップを拡充するよりも、ビジョンのある提案をすることで新たな利用形態を獲得し、将来の成長を掲げることによって企業価値の向上を進めたほうが得策だろう。

  ビジョンのある提案とは、例えばビジネスマンをターゲットにしたPAN環境対応の定額制広帯域プラットフォーム端末(PCからPDA、カーナビなどの保有する情報端末のネットへの通信機能をすべて担う。ケータイと情報端末との通信にはBluetoothなどを用いる)やら、商業・工業用端末(ICタグなどのリーダー機能を搭載し、LAN環境と直接リンク可能なワイドディプレイ端末)、他の利用者やハードとのローカル通信機能を拡充したコミュニティ端末(教室やオフィス内でのチャットが無線LANやPtoPでできる)など、利用者の財布に応じたものではなく、利用者の生活や行動に志向したちょっと未来の「あるべき姿」を提示するものだ。

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