にわかに到来した増配ブーム、本当の背景

 2004年3月の決算期末を目前にして、上場企業による増配、復配の発表がここ数年にない勢いで相次いでいる。まさにブームといってもよいほどの状態だ。日立製作所が2期連続の増配(2004年3月期の期末配当を前期末比2円増配の5円とし、年間で8円)を発表したのをはじめ、主なところでJFEホールディングス、神戸製鋼所(復配)、アドバンテスト、JSR、東海東京証券(復配)といった企業が相次いで増配を発表している。なぜいま増配ブームが起きているのか、その背景を探った。

 当然のことながら、企業にとって配当は株主還元策の根幹をなすものだ。しかし、これまで日本では、配当は非常に軽視されてきたと言わざるを得ない。さらに、長期不況が継続するなかで赤字転落を強いられる企業が続出し、減配や無配を余儀なくされるケースも目立っていた。

 今3月期は、長期間にわたって企業業績回復の足かせとなってきた不良債権の処理にメドがつきはじめたのに加え、様々なリストラの進ちょくにより採算の改善が進み、ようやく安定した利益を確保できる環境が整ってきたことが増配の背景としてまず上げられる。

 さらに、今回の増配ラッシュのきっかけとして見逃すことができないのは、市場関係者のあいだで「サプライズ増配」といわれる現象が起きたことだ。この「サプライズ増配」というのは、米国投資ファンドのスティール・パートナーズが東証2部上場の毛織物染色大手のソトー、金属加工油剤トップメーカーのユシロ化学の2社に対して敵対的TOB(公開買い付け)を仕掛け、両社はこのTOBに対抗するため(浮動株を保有する株主がTOBに応じないように)、一気に年間200円というこれまで日本ではあり得なかった高水準の配当を提示したことだ。ちなみに両社の前期の年間配当は、ソトーが3円、ユシロ化学も4円に過ぎなかった。

 外国証券のアナリストは「今回の米系ファンドによる敵対的TOBの試みは成功しなかったものの、これまで非常に低いレベルの配当しか実現せず、株主還元策をおざなりにしてきた上場企業経営者の眼を少しは開かせることには役立ったのではないのか。実際には配当利回りで10%を越えるような200円という破格な水準は無理としても、敵対的TOBからの防衛策としても増配という株主還元策の強化が有効だという認識が芽生えはじめているようだ」としている。

 通信料金の一括請求サービス最大手のインボイスが発表した増配もサプライズといえる。今3月期の年間配当は1046円と前期に比べて684円の増配となる見通しだ。会社側では「これまで配当性向50%を継続してきたが、今期は東証2部上場の記念として100%に変更した」とし、今期の純利益をほぼ全額株主へ還元する意向だ。

 また、復配企業も目立つ。すでに紹介した神戸鋼、東海東京証券のほかに、住金物産は6期ぶり期末3円、乾汽船はなんと22期ぶりに同3円、新和海運も19期ぶりに同4円、神鋼商事も5期ぶりに同2.5円の復配を予定している。なかでも注目を集めたのがアサヒ飲料で、資本準備金および利益準備金を取り崩し、3期ぶりに期末9円の大幅復配を表明している。

 国内要因としては継続する持ち合いの解消の売り、海外要因としては敵対的なTOBの活発化が予想されるなかで、株主構成が大きく流動化してきている。こうしたなかで、株主を安定化させるためには、株主優遇策のさらなる強化は上場企業の経営者にとって最優先で取り組むべき課題となりそうだ。

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