大橋禅太郎氏に見るIPOしない起業家の生き方--2 - (page 2)

構成:西田隆一(編集部)
写真:梅野隆児(ルーピクスデザイン)
2006年04月05日 08時00分

大橋 ランディー・ヘイキンというヤフーの初代マーケティング担当取締役で、株で儲けて投資家に回ったのがいるんだけど、会社が彼からの投資を受けていたんです。彼はマネージメントコーチを彼の重要なポートフォリオの会社に送り込んでいたんですよ。そうするとその会社は御利益があったんです。

 そのマネージメントコーチがハワード・ゴールドマンという人間だったのですが、僕らのところにも「彼を使ってみたら」とランディーから言われた。だけど、別に僕らはコーチは必要がなかったんです。資金やアイデアやいい従業員や売り上げやお客様が欲しくて、コーチは一番要らなかったんですが、アンディが興味を持っていて、やりたいと言ったんです。結局、僕は特に強く反対する理由もなかったのでコーチングを受けることにしました。

 ハワードは偉そうなやつで、偉そうな質問をするんですよ。「この会社をどうしたいんだ」「問題は何だ」とか言うから、僕がのらりくらり答えていたら、「おまえは単なるアスホール(ass hole、バカ野郎)じゃないか」と言われて、「確かにそうです」みたいなやりとりをしていました。僕は最初はそのプロセスを信じていなかったんですけど、やっているうちに成果が出始めたので、「なんじゃこりゃ」と思ったのを覚えています。それがうまくいって70人ぐらいの会社になって、セカンドラウンドで10億円ぐらいの投資を集めたんです。ただ、いろいろあって1年後にその会社はほかの会社にかなりきついかたちで買収される形になりました。

 僕がその頃、次のチャレンジで何をやろうかと思って、日本で『ガズーバ』(インプレス刊)という本を出したあとに、ベンチャーキャピタルの話とアウトソーシングの話とコーチングの話をスピーチしていたら、コーチングの話がやけにウケていたんです。2000年という年は、まだコーチングを受けたことがない人ばかりで、何人かの経営者から「あなたがそれをやれば」と言われました。「ああ」と思って、アメリカに戻ったときに24枚の経営者の名刺があったので、ハワードに「日本で興味があるけどやってみないか」と言ったんです。そうしたら「2001年1月の第4週を1週間空けておくから1社5000ドルで売ってくれ」と言われて、すぐに興味を持ちそうな会社にメールを打ったんです。そうしたら5社分も売れてしまいました。

 それで、僕はハワードに威張りながら「売れたよ」と言ったらすごく渋い顔をして「値付けを間違えた」と言われました。それで翌月倍にして1万ドルにしたんですよ。そうしたら前月5000ドルで買った会社の中に値上げした値段でも買ってくれたところが何社かあって、「これは金になるぞ!」と目の前にガシャンとドルマークが落ちて……。最初はお金のために始めたんです。

 今でもお金のためにもやっていますが、やっているうちにいろいろなところで効果が出てきたので、本腰を入れてやっているところです。

小池 確かに非常に成果はあるよね。それで会議のやり方も変わるし。ただ継続しないとみんな忘れちゃうからね。だから、コーチ自体は非常に効果があるものだと僕自身も思う。いま思い出すと、マネージメントコーチの日本での事業化みたいなものもハワードと一緒に話をしたことがあったよね。

大橋 小池さんと話して、これにもっと人と金を入れて広げませんかと。

3週間働いて1週間は休み、週4日以上は仕事をしない

小池 そうだったね。それで、今コーチング自体はすごい大ヒットで、禅ちゃんも日経MJの一面に写真入りで採り上げられたり、すごく満足度が高いんだろうね。ところで、今のワークスタイル、ライフスタイルというのはどういう感じなの?

大橋 3週間働いて1週間休み。あと週4日以上は仕事をしない。1週間休むときは、だいたい海外旅行に行っています。ウインドサーフィンが多いです。アルーバというベネズエラのちょっと北にオランダ領の人口1万人ぐらいの小さな島があるんです。そこが素晴らしいんです。特に2月から8月ぐらいはすごくいい風。日本人はほとんどいなくて、あまり観光地化していないんですよ。

小池 それを頑なに守り続けているという話だよね。

大橋 この間ある人に「飲み会をしましょう」と言われて、あこがれていた人なので、「ああいいですよ」「いつ空いている?」と言われたんですが、最初に空いている日が3カ月後で「ごめんなさい」って断ったんです。今はちょっと狂った状態です。

小池 今ベンチャーを起業する人たちっていうのは、IPOを目指して、当然ベンチャーキャピタルから資金提供を受けた時点で、なんらかのEXITを目指さなければいけなくなる。だけど、禅ちゃんの場合はアメリカでベンチャーキャピタルからのファイナンスを受けてそういう会社をやってきたという経験のもとに、今は個人営業、個人商店で自分のライフスタイル、ワークスタイルを貫いて、あえてIPOを目指さずにできる環境で事業をやってる。それは、ある意味で非常にうらやましくもある。

 アメリカではIPOを目指す起業家も多いけど、自分のスタイルで自分の好きなことをやりたいという起業家も山ほどいて、あえてIPOなんか嫌だと言っている人たちもいっぱいいる。

 僕は日本にももっともっとそういう起業家が出てきていいと思っていて、だから、禅ちゃんは今までの生き様も含めて、そういう目標の一人になるような魅力を持っている人間だと思う。IPOしない経営者の生き方というのはどう思う?

小池聡氏

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