大橋禅太郎氏に見るIPOしない起業家の生き方--1 - (page 2)

構成:西田隆一(編集部)
写真:梅野隆児(ルーピクスデザイン)
2006年03月27日 16時10分

大橋 ありました。億万長者になりたいという漠然としたね。デカい牧場でも買ったり、デカいビルでも建ててという。

 後々に新宿で小さな会社を作ったのだけど、帰るのに大久保から中央線に乗るんですが、だいたい毎日終電まで仕事をしていて、そこから新宿の高層ビルが見えるわけです。12時半ぐらいが終電なんですけど、「いつかはマイビルディングを持つぞ」みたいな、そういうふうな漠然としたものがありました。

 ただ、僕にとっては、そのときやりたいことがやれるというのがすごく重要。多くの場合はお金より時間より前に、やりたいというアイデアとか情熱のほうがないことが多い。僕も含めて、お金と時間は多分なんとかマネージできるんです、最初の情熱とかアイデアがあれば。そうすると、それが起きたときに自由に実行できる状態というのが、僕にとって人生のステージではすごく価値がある。

過酷な条件で働いたシュルンベルジェの体験

小池 ワークスタイルもライフスタイルもそうだけど、そのときにやりたいこと、やるべきことが自由にできるってすごくいいことだね。

 話は本題に戻るけど、禅ちゃんは大学を卒業して、シュルンベルジェに入社して、その後ニューヨークで僕の会社(当時。ISID--電通国際情報サービス米国現地法人)で手伝ってもらうことになるんだけど、その時、僕が採用した決め手が、履歴書を見たときに石油を掘っていたという話だったのだけど、そこまでのいきさつを教えて欲しいな。

大橋 サマーインターンに行ったシュルンベルジェに就職したのだけど、そこはインターナショナルのスタッフをどうやって募集するかというと、来年200人採用するとなると、前年の各国の売上比率で割り出すんです。日本だと石油はあまり採れないので1%ぐらいの売り上げだから2人とかね。世界で200人採用して、それを16人ずつのグループに分けて、世界に何カ所もあるトレーニングセンターで14週間のトレーニングをさせるんですよ。その14週間で半分ぐらいがクビか自主的に辞めていくんです。

 というのは、石油の掘削現場って1時間も無駄に何もしないでいるとリース料とか人件費とかで数百万円が吹っ飛ぶわけです。そうすると、例えば1つのサービスを24時間で終わるところが23時間でできたとしたら、そこで数百万円の価値があるんです。作業が早くて問題が起きても対処できる人がものすごく価値が高いんです。24時間の作業を8時間ずつ3日でやるんじゃなくて、100万円のボーナスを払うから寝ないでやってくれたらそのほうがすごく価値が高いわけです。

 例えば、データを取るということだけでも使う機械は120万パーツぐらいあるんで、120万パーツを10時間動かすと統計的に2、3個は必ず壊れるんです。海中油田やジャングルにはスペアパーツがないから、いろいろなバックアップのシステムはあるんですが、バックアップも壊れる可能性もあって、そうするとトラブルが起きる中で時間通りの成果が出せるかどうかが問われます。僕がボトルネックになって下手をしたら1週間油田が止まってもおかしくないんです。そうすると億円単位の損失なんておかしくないんです。

小池 どこで石油を掘っていたんだっけ?

大橋 インドネシアとかスマトラ、例の洪水があったアチェとかです。かなりシビアで、アチェって雨期がかなり激しいんです。探査の仕事をしていたときがあって未開の地でやっていたんです。雨期が始まる前に探査を終えようとしていたんですが、大油田が見つかって、ボーナスたくさんもらえるからと、機材を突っ込んで追加調査するわけですよ。

 そうしたらだんだん飲み水がなくなっていくんです。結局、最後に閉鎖することになった。そこにヘリコプターを来させて救出する予定だったんですが、救出する時点になってインドネシア陸運局の許可を取っていなかったのがわかって、賄賂を払って大型ヘリの離発着を5回だけ認めてもらったんです。

 機材やスタッフを運び出すのに積載分として2000ポンド(900kg)の重量を許可してもらったんですが、現地人のスタッフが10人いたんで、全員体重計に乗せて計算したら700kgぐらい、あとは機材を200kgだからどれを持っていくかリストを作って、インドネシアの本部にファックスしたら「アホか」と。「機材を持って帰りなさい」と言われて、向こうの飛行場に着いてから荷物を下ろすのに人夫が必要だから2人を選んで、あとは南極物語のタローとジローみたいに、「さよならー」ってヘリコプターを見送る。そういう世界でした。

小池 結局、シュルンベルジェに入ったのは石油が掘りたかったからではないんだよね。 給与がよかったから?

大橋 初年度で手取り1000万円ぐらいもらえるんですよ。

小池 新卒で1000万円ももらえるところってないよね。

大橋 だから全世界から優秀なやつを採れますよね。シュルンベルジェの採用サイトの日本というところを見ると、ターゲットの大学として慶應、早稲田、東大、京大、東北大ぐらいしか書いていない。基本的に「それ以外は応募しなくても構わないです」みたいなニュアンスで書いてあって、僕は東京理科大だったんですが、東京理科大から行ったというと、みんなから「へえ」みたいな感じに言われました。

 例えば、インドだったらあの10億人の中の初任給が100万円を切っておかしくない所で1000万円ももらえるなんて、神様みたいな能力と人格といろいろなものを持った人たちが来るのでびっくりしますよね。

小池 その採用試験に受かった要因は何だと思う?

大橋 「こいつはヤバイ状態になってもなんとかなるかな」というのはしばらく話しているとわかるでしょう。

小池 サバイバル要員だな。それからどうしたんだっけ?

大橋禅太郎氏

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