「ITを実際の社会に落としていく」内閣官房・岸博幸氏 - (page 4)

今後の課題

--なるほど。つまり、e-Japan戦略IIでは相当難しいフィールドに足を踏み入れている、という認識を持った方が良さそうですね。

岸: ここは特に重要なんですが、e-Japanは広義に言えば規制改革、政府の業務改革という性格を持っていることを忘れてはならないと思います。つまり、ITはツールであって、それを用いて社会をより便利にする、あるいは政府の業務を改善する、というのがe-Japanの目標です。それで、現在はツールの整備の段階が一定の成果を上げたので、実際にそれを用いて社会問題の改革を行うという段階に入ってきたわけです。 すなわち、裏を返せば、ITだけでは解決できない作業が発生する段階に突入しているとも言えるんですよね。だから、内閣官房の中にある他の政策会議・政策本部(規制改革本部や経済財政諮問会議等)とかと密接に連携をしていくことが重要になってくるのです。

 でも、いま加速化パッケージでも謳われているような施策でも、いざやるとなったら、ものすごく大変なんですよ。既存制度とのぶつかり合いなわけですから。例えば医療の問題。既存の診療報酬制度の中でレセプトの電子化をやるだけでも大変なのに、どうやって根本的に制度をいじるか。例えばICタグの普及。あまり報じられないですけど、これは物流業界にとってはものすごい中抜きになるので、中間的な業者がさらに圧迫されるわけですが、これに伴う措置はどうするんでしょうか?例えば、電子自治体(電子政府)については、「業務が効率化されました、ぱちぱちぱち。」では全然だめでしょう。自治体職員の大幅カットが伴ってないと意味がないですよね。行政改革という文脈があるんだから。

 しかし、こんな調整を本気でやろうとしたら、現状の体制ではマンパワーも権限も足りないですね。これは根本的に内閣府の権限の限界なので、一度に出来ることには限界があるんです。

 さらに、e-JapanはIT業界への補助金、バラマキ予算ではないという批判にどう答えていくかも重要です。ITゼネコンなんて言葉もありますが、これはダブルミーニングで、大規模な下請けを組織して扱き使っているという業界構造を指すのと、公共事業的に政府のお金が流れ込むことによって、本来退場すべき企業が延命しているという二重の意味になっているのです。実力のある企業が残るなら問題ないのですが、それによってIT産業の競争力が下がったり、税金が効率的に使われないと言うのは問題でしょうね。このあたりは、レガシーシステム見直しについての各省庁への申し入れ等、特に自民党政務調査会のe-Japan特命チームが興味深い動きを見せています。我々もこのような動きと連携をして、効率的な電子政府の実現に向けての模索を続けているところです。

 いずれにせよ、IT産業の構造問題ともいえるわけで、この問題は、現在のe-Japanでのいろいろな取り組み(ITスキル標準や、CIO補佐官会議等)もそうですが、むしろe-Japan戦略IIIのような、より大きな枠組みでの検討課題として浮上してくるのではないでしょうか。

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 この部分は極めて重要な示唆が含まれていると思う。すなわち、e-Japanが単なるIT振興政策ではなく、ITを用いた社会改善という真の目的があるということだ。それゆえ、先ほどのe-Japan戦略IIの現状でも出てきたように、現在の作業は地道な法令改正や既存制度との調整という側面が強くなってきている。そういった中で、他の政策会議との連携という点は頑強な抵抗を乗り越えて、改革を実現するためには必須になってくるだろう。ただし、現在その連携はまだ始まったばかりで、このあたりは今後の取り組み課題といえるだろう。

 さらに、IT産業自体の問題にもe-Japanはどのように取り組んでいくのかという点の指摘も重要であろう。前述したが「何でもITにすりゃいいってもんじゃない」という乗っかり予算の問題という、執行前の審査の問題と、このバラマキ批判への対応という、施策執行後の事後評価と、問題点の修正の必要性は、e-Japanが2005年までの目標期間の後半に入った現在はますます注目を集める点である。岸氏が指摘した、この2つの視座は本連載を続けていく際にも常に意識していくことになるだろう。

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