中国版「黄教授論文ねつ造事件」が発覚--中国メディアや市民の反応は?

 ここ最近、中国では国をあげて独自技術の研究開発に取り組んでおり(「863計画」と呼ばれる)、その1つとして国産CPUの「龍芯(longxin)」「鳳芯(fengxin)」やデジタル信号処理装置(Digital Signal Processer:DSP)の「漢芯(hanxin)」「同芯(tongxin)」などを開発してきた。そのうちの1つ、漢芯がねつ造されたDSPであることが明らかになり、今中国で話題となっている。

中国独自DSP「漢芯」は何もかもねつ造だった

 中国国産DSPの「漢芯」の全モデル「漢芯1号〜漢芯5号」はモトローラのDSPや、他社技術の流用であったというねつ造が発覚した。舞台となった江沢民前国家主席を輩出した名門の上海交通大学の中国語サイトにこれについての調査結果が発表されているが、5月19日現在、同大学の英語サイトでの発表はされていない。

 事件発覚後、研究の主導にたった上海交通大学微電子学院院長兼、漢芯科技総経理の陳進氏は、同学院の院長と教授の資格を剥奪され、また教育部から与えられた「長江学者」の称号も剥奪されたほか、研究費の返還も請求された。

 中国メディアによると、漢芯1号は、初めモトローラの208ピンのDSP「dsp56800E」のデータシートをダウンロードし、それを漢芯1号のものとして発表した。その後の発表会で漢芯1号を載せたポータブルMP3レコーダが展示されていたが、その漢芯1号はモトローラの144ピンのDSPである「dsp56858」の表面の刻印をヤスリで削ったリマーク品であった。上海交通大学は「そもそも144ピンのDSPは開発していない」と発表内でコメントしている。

 漢芯2号〜漢芯4号についてだが、上海交通大学の発表によると、漢芯2号は他企業からの委託品のため、自身でコアを開発したわけではなく、漢芯3号についても、漢芯2号を拡張したものなので、これも独自技術ではない。漢芯4号については、他社のSoC(System on Chip)を利用する一方で、DSPコアを含まず、漢芯を名乗っていた。

 漢芯5号は上海交通大学のニュースリリースで書かれていないが、中国メディアによると、FREESCALEのプロセッサ「MC9328MXL」のリマーク品ではないかという疑惑があがっている。

 3年前の2003年に漢芯科技からメディアを通しこんな発表があった。「漢芯は既に国際市場で100万個の製品を販売した」。だがそれもねつ造だった。そもそも漢芯は産業化されていなかった。中国メディアに対して、上海市半導体協会副秘書長の薛自向氏はこの発表について「漢芯の量産の話なんか聞いたことがない」と否定している。

メディアや世論は韓国の黄教授事件とかぶせ、反陳進氏一色

 疑惑は2005年末の大学への通報から始まり、2006年初めからネットの様々な場所でねつ造疑惑の書き込みがあったが、5月12日、大学の発表でひとまず幕が降りた格好となった。中国にネガティブな事件ではあったものの、ウェブメディアや世論はこのねつ造事件を今も紹介しつづけている。特にポータルサイト、ニュースサイト、教育機関関連のサイトでこの事件を紹介しているようだ。たくさんの中国のブログでこの事件を取り扱った日記があり、多くの個人やブロガーもこの事件に注目していることが伺える。

 おおむね事件を淡々と時間軸に沿って紹介していく記事が多いなかで、陳進氏を擁護するニュースは確認できなかった。多くの中国メディアのニュースで、去年起きた韓国ソウル大の黄禹錫教授によるヒトES細胞ねつ造事件を紹介し、この2つの事件をかぶせているのが興味深い。

 中国政府も気になっているようだ。中国発の知的財産権を重要視する中国政府商務部はニュースリリースにおいて、ねつ造調査が素早く行われたことを評価している。また別のニュースリリースにおいて、イギリス発の報告として、ねつ造事件がイギリスのいくつかのマスメディアで取り上げられていることを報告したりもしていたが、こちらは現在、該当のページは削除されている。この事件を見る諸外国の目も気になるようだ。

 中国のブロガーはブログで陳進氏に批判を浴びせ、この事件を扱うブログにコメントしたりしている。また、BBSは陳進氏叩きだけの場と化している。また今回の事件を引き合いにして、別の中国独自技術を謳う製品について、具体的な例を挙げ、その製品もねつ造ではないかと疑うブログも出現した。

 本題から若干それるが、中国国産CPUである龍芯2号は、MIPSのコアと構成が95%同じであり、知的財産権に違反にするのではないかという疑惑があるが、漢芯ねつ造事件を扱うブログでも、その記事と龍芯2号をリンクさせる記事は少ない。

 まだこのねつ造事件はしばらく中国国内で論議を巻き起こしそうだ。

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