日本企業に活力を--オピニオンリーダーが語る、クラウド活用の心得(3)

 メディア横断企画「クラウド討論会2011」の終盤は、企業が国際競争力を維持するため、どのようにクラウドを役立てればいいのかまで話が展開した。だが同時に、現状では整備不足な側面も多々浮かび上がってきた。

クラウドをグローバルで活用する魅力とリスク

 確かに、クラウドを活用するに際して、価格やサービスレベルなどの点でさまざまな選択肢があるのとないのとでは、ユーザーが得るメリットの質は大きく異なってくる。アイ・ティ・アールの舘野氏によると、日本のユーザーはクラウドサービスの中でもIaaS(Infrastructure as a Servic)やPaaS(Platform as a Service)といったサービスに関心を寄せているという。

 これは、柔軟なICT活用をグローバルで進めようという意識の表れだろう。グローバル展開する日本の製造業などでは、ICTのプラットフォームを 統合し海外拠点に対してさらにガバナンスを強化したいという目標がある。その統合にクラウド基盤を活用できないかという発想がでてきても不思議ではない。 そうなると当然、事業者選定においても、グローバル対応力が求められ、価格やサービス内容の面でもさらに豊富な選択肢が必要になるのは当然のことだ。

 

 しかし、グローバル展開には当然リスクも存在する。海外でクラウドサービスを構築したり、利用したりする場合は、その地域の事情、国ごとの法的な 問題を考慮する必要がある。例えば米国では過去に、FBIがデータセンターに捜査に入り、捜査対象が利用していると見られるサーバをすべて証拠として持ち帰った例があるという。そこには、捜査対象以外の利用者のデータも格納されていたというのだ。

システム移行の判断とネットワークの重要性

 こうした危険だけでなく、現在既存システムで運用しているシステムのどれをクラウドに移行させていくかという問題もユーザーにとって大きな課題となる。日経BPの星野氏は何を最もクリティカルなシステムとするかで変わってくるという。

 「クラウドに移行するものは重要度、システムの規模も中間ぐらいのレベルのものであることが多いようだ。情報系のシステムはパブリッククラウドに移行し、基幹系はそのままに。そして業務系のシステムはプライベートクラウドで、という選択が普通だろう。しかし、企業によっては業務系のシステムがクリ ティカルなケースがある。商社やサービス系の企業はそうしたことが多い。従ってそれをクラウドにいきなり移行してしまうことは非常に危険ということにな る。何が自社にとって最も大切なシステムなのかを見極めていること、それがクラウドを賢く活用するための軸となるはずだ」

 また、今後IaaS、PaaSというクラウドサービスの活用を考えている企業が多いことについて、TECH.ASCII.jp 編集長 大谷イビサ氏は次のように話す。

 「IaaS、PaaSを積極的に業務に活用していく傾向が強まるということは、インフラやプラットフォームの動脈ともいうべきネットワークの質に ついて改めて意識せざるを得なくなる。ブロードバンドの時代になって、一般に速い回線であればそれでいいという風潮が大勢を占めるようになっているが、問 題はアプリケーションを遅滞なく使えるようにすることだ」

クラウド活用のトータルコーディネートを

 これについては、多くのパネリストが賛同した。また、事前アンケートからもこの点について興味深い結果が出ている。ネットワーク事業者に絞って選 定時の重視ポイントをたずねたところ、「コスト」「速度」の視点は相対的に低下傾向にあり、この結果から、「クラウドサービスの充実度」「データセンターのロケーション・堅牢性」「海外でのサービス提供力」などが重視されることが予想されるというのだ。このようにクラウドサービスというビジネス分野では、 ユーザーに支持される事業者の実像ともいうべきものが少しずつ明確になりつつある。キーワードは、ネットワークとグローバルの2つということになるだろう。

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 アイティメディアの浅井英二氏は「クラウドサービスというのは、アウトソーシングサービスとどう違うのか。従来のITサービスとの違いを明確にしていくためにも、あらゆるレイヤーで質の高さを実証し、圧倒的な利便性を示す必要が出てくるだろう。そのための事業者の努力が、利用企業の経営者が納得するサービスに成長させていく。そして、クラウドという言葉がバズワードではないか、という疑念も消えていくはずだ」

 今後のクラウド活用という点と関連して「ユーザーはワンストップでクラウドを利用する方法も考えている」とアイ・ティ・アールの舘野氏は指摘する。クラウド活用については、信頼できる事業者にすべてを任せるという選択をし、事業に集中する体制を取りたいということだろう。

 システムの各レイヤーのどこまでを事業者に任せてしまうかはユーザー次第。いかなる選択がなされたとしても、これからのクラウド活用は、パブリック、プライベートともにネットワークも含めたトータルコーディネートを高いレベルで提供できる事業者が求められることは確かなようだ。

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