マイクロカーネル上に仮想化したLinuxとITRONを実装するアーキテクチャにより、セキュリティと信頼性の強化を実現
早稲田大学理工学部 中島研究室、筑波大学大学院 追川研究室、エルミック・ウェスコム株式会社(本社:神奈川県横浜市、代表取締役社長:村島 一彌)の3者は、組込みシステムのセキュリティと信頼性の強化を実現する新しいOSアーキテクチャの開発に共同で着手することを発表します。本プロジェクトで開発するアーキテクチャは、マイクロカーネル上に仮想化したLinuxとITRONを実装するもので、システムの強化と同時に、開発工数の短縮のメリットも得られます。本プロジェクトでは、3者が協力して仕様の策定を行い、プログラムの実開発はエルミック・ウェスコム株式会社が行います。プロジェクトの終了は2007年3月を予定しており、終了後には成果物であるプログラムのソースコードを公開し、オープンソースソフトウエアとして幅広く普及することを目指します。
昨今、組込み機器においては、オープンなネットワークへの接続や高機能化や用途の多様化の進行によるシステムの複雑化に伴い、セキュリティの強化とソフトウエア信頼性の向上が重要な課題となっています。また同時に、開発現場では商品サイクルの短期化により、開発効率を向上し開発期間を短縮することが求められています。このような課題の解決方法のひとつとして、早稲田大学の中島教授と筑波大学大学院の追川助教授が研究開発を行っている技術が仮想化OSです。仮想化はコンピュータ上に何らかの実行環境を仮想的に構築する技術であり、サーバやPCの分野では既に導入されていますが、組込みシステムの分野では仮想化OSはまだ実用化されていません。そこで、組込みOS分野でハイブリッドアーキテクチャの開発などの実績をもつエルミック・ウェスコムが両研究室と共同して開発することになりました。
本プロジェクトでは、1つのCPUマイクロカーネルを実装し、その上で仮想化したOSを複数動作させるプログラムを開発します。このOS構造では複数の実行環境がそれぞれ独立して動作するので、アプリケーションやリソースをOSごとに分離することが可能となります。このことにより、以下のような特徴をもつシステム環境を構築することができます。
(1)外部からの攻撃に耐える強固なシステム
それぞれのOS上で動作しているアプリケーションに対して他のOSのアプリケーションからはアクセスできないので、アプリケーションそのものやデータを外部から保護することができます。
(2)内部で発生した不具合に対して堅牢なシステム
あるアプリケーションに不具合が生じてもその実行環境の内部にしか影響を与えないので、被害を最小限に抑える事ができ、システム全体の信頼性が向上します。また、メモリ容量やCPU性能などシステム資源の限られている組込みシステムでは特に資源管理機能がシステムの信頼性において重要となりますが、仮想化OS構造では、OSごとに資源を割り当てたりできるので、効率良い資源管理が可能となります。
また、過去に各OS上で作成したアプリケーションやドライバなどのソフトウエア資産を有効に活用できるので、開発効率が向上されます。さらに各OSとそのOS上に構築したドライバやアプリケーションを合わせて仮想化するので、異なるCPUへの移植が簡単に行えます。また逆に、今後増加するであろうマルチコアプロセッサなどの複数CPUへ移植する場合には、マイクロカーネルが資源管理を行うので、対応が容易に行えます。負荷に応じてCPUの性能と構成に柔軟な対応が可能となります。
仮想化OSのデメリットとして、リアルタイム性が損なわれる事が危惧されていますが、事前実験によりマイクロカーネル上のITRONが十分なリアルタイム性を保証できることが実証されており、今回開発するアーキテクチャにおいてもこれまでと同等のリアルタイム性を実現することを目標としています。
なお、本プロジェクトの終了後には、オープンソースソフトウエアとして成果物を一般に公開いたします(2007年3月を予定)。リアルタイム性能と信頼性の高いOSが普及することにより、組込み機器全般のパフォーマンス向上に寄与したいと考えております。
なお本件に関し、以下の方々からコメントをいただいております。
早稲田大学理工学部 コンピュータネットワーク工学科 教授 中島 達夫氏
「ハードウエア仮想化は今後の組み込みシステムにおいて大変重要な技術です。
今回の取り組みは、より複雑化する組み込みシステムに対処するための重要なステップであると認識しています。」
筑波大学 大学院 システム情報工学研究科 助教授 追川 修一氏
「高い信頼性、堅牢性、セキュリティが要求される組み込みシステムには、今後、仮想化技術が欠かせないものになっていくと考えられます。今回の取り組みは産業界からの要求に応えることができるシステム構築を目指すものであり、日本の基盤ソフトウェア技術向上のためにも重要な意味を持つと考えられます。」
エルミック・ウェスコム株式会社 代表取締役社長 村島 一彌氏
「当社では創業時よりリアルタイムOSの開発に取り組んでおり、複数OSのハイブリッドアーキテクチャ開発や保護機能を有するリアルタイムOSなど、独自のOS技術を培ってきました。この度、先進的な技術開発を行う両研究室と共同で開発に携われることを光栄に思います。また、今後もこのような産学協同のプロジェクトで技術力向上を図りたいと思います。」
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