2003年総集編--イノベーターとして復権を果たしたアップル

坂和敏(CNET Japan編集部)2003年12月30日 10時00分

 Apple Computerにとって、2003年は大小数々の新たな製品・サービスを投入し、久々に「イノベーター」としての存在感を印象づけた1年だったといえよう。ここでは海外の記事を中心に、特に夏以降の動きを振り返ってみたい。

「iPod+iTunes」によるデジタル音楽分野の開拓

 米週刊誌Timeは先頃、「Coolest Invention of 2003」(今年一番クールだった発明品)にAppleのiTunes Music Storeを選んだ。単にコンピュータの世界にとどまらず、たとえばトヨタのハイブリッドカーや、各社のカメラ付携帯電話、さらにはセグウェイ発明者の作った浄水器など、さまざまな分野の候補を抑えて1位に輝いたところに、iTunesの与えたインパクトの大きさがうかがい知れるといっていいかもしれない。

 このiTunes、サービス開始から約7カ月半で2500万曲を売り上げたという。当初は、いわゆるPtoPネットワークから無料で音楽ファイルが入手できるなかで、果たしてお金を払ってまで音楽データを買う者がいるのか、と懐疑的な姿勢で様子見を決め込んでいた競合各社も、iTunesのこの成功を指をくわえて見過ごすはずもなく、とくに10月のWindows版発表以降は、各社が雪崩を打って同様のサービス開始(あるいは予定の発表)を行った。そして、オンラインでの有料音楽配信は、いつの間にやら当たり前のものとなるところまで浸透した。

 Appleがこれだけの影響力を発揮したのは、大げさにいえば、MacintoshでGUIを登場させて以来のことかもしれない。だが、一説によれば1曲99セントの売上のうち、Appleの手元には10セントしか残らない(上記Time誌記事)ため、iTunesでの音楽販売がどれほど好調に推移しても、Appleの懐具合にはたいした影響を及ぼさない。当のJobsでさえ、はじめから音楽販売ではお金は儲けられないと腹を決めてかかっており、「これ(iTunes)は、トロイの木馬」だとうそぶいているという。そして、木馬に隠れて忍び込む兵士にあたるのがiPodという仕掛けである。

 iPodの売上台数は累計で140万台ともいわれ、また今夏の時点では、MP3プレーヤー市場で30%を超えるシェアを抑え、同分野の首位に立っている。そんなiPodがAppleにとってとりわけ重要な理由は、ずばり比較的高いその利益率にある。10月半ばに出された第4四半期決算のなかで、AppleはiPodの売上が1億2100万ドルだったと述べている。さらに、上記Time誌の記事によれば、499ドルのiPodを1台売るごとに、最大で175ドルもの利益を得られるという。ちなみに、同四半期の純利益は4400万ドルであったことを考え合わせると、iPodの財務面での存在がいかに大きいかが把めるだろう。

 それだけ重要なcash cowに成長したiPod(とiTunes)だが、今年後半には、それまでのRio等の競合に加え、米MusicMatchと組んだ米Dellが自前の音楽プレーヤーを発売して追従したり、また新生米Napsterでも韓国Samsungと組んで同様の試みを始めたりと、すでに強力なライバルが出現し、さらには来年には米Microsoftソニーなど、コンピュータ・家電両分野の強豪がこの分野に乗り出してくる予定である。

 ファーストムーバの利を得て、これまでほぼ独り勝ちの状態を続けてこられたAppleが、一段と激しさを増したこの分野で、果たしてどこまでこの優位を保てるか、あるいはさらにリードを広げていけるかは、来年の焦点となる。

企業努力の跡が目立ったハードウェア

 6月に、初の個人向け64ビットマシン、Power Mac G5という大きなイノベーションの成果を発表していたAppleのハードウェアは、今年後半インクリメンタルな改善で終始した感がある。だが、そのペースや中身は若干地味ながらも、非常に充実したものだった。

 9月上旬のiMacの高速化とiPodの大容量化、同月半ばの新15インチPowerBookの発表、10月下旬のiBook G4化、そして11月の20インチiMacリリースおよびG5のマイナーチェンジ(と価格引き下げ)と、いま振り返ってみると、かなり頻繁に新製品の追加や既存製品のアップグレードが行われていたことがわかる。また、12インチiBookの13万円を切る価格設定をはじめとして、各製品が過去のものと比べて相対的にかなりアフォーダブルにもなってきている。そうしてまた、かつて他社に先駆けてWi-Fi(IEEE802.11b)を採り入れて、その普及に一役買ったように、iMacという普及価格帯の製品でどこよりも早く20インチのLCDを投入したことは、今後のさらなる(パソコンの)大画面化を牽引する役目を果たすかもしれない。さらに、細かな点をあげれば、PowerBook(アルミ筐体)の発熱やiMacのLCDの画質など、一度指摘された問題については、次のアップグレードで概ねきちんと対策を講じてきているところも、ユーザーにとっては好ましい点として印象に残った。

Mac OS X 10.3 "Panther"のリリース

 毎年1度のアップグレードが恒例になったMac OSについては、6月に発表されたPanther10月に発売となった。新しいFinder、Expose、FastUserSwitchなどをはじめ、合計100を超える新機能の搭載が大きく打ち出されてはいたものの、実質的にはこれまでのバージョン(10.2)を踏まえたもの。

 このPantherのリリース前後から、それに付随した障害や、あるいはセキュリティ関連の欠陥が見つかるなど、いくつかの支障が続いて現れたが、インストールベースの小ささが幸いしてか、あまり大事には至らずに済んだようだ。

そして来年は・・・

 これだけの成果を残しながら、それでも相変わらずMacのコンピュータ市場でのシェアは減少し続けており、一説には現在2〜3%の間にあるともいう。前四半期(2003年第4四半期)には、売上高17億ドル、純利益4400万ドルを記録。 前年同期の赤字から大きく改善した。

 スティーブ・ジョブズは、11月に来日した際、「過去3年間のIT不況の間に、パソコンを売って利益を上げたのは、たった2社しかない。1つはDellで、これは販売台数で他を圧倒した。一方もう1社のAppleは、他社を技術革新で出し抜いた("out-innovate")」旨の発言を行い、自社の先進性に関して自信をのぞかせていた。Appleの革新性に関しては、今年の成果を見る限り、異論を差し挟むものはないだろう。このイノベーションを、今年(以上)のペースで来年も続けていけるどうか。Appleの浮沈は、この1点にかかっているように思える。

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