「携帯機器向け燃料電池の本格普及は2010年」---NEC、東芝、カシオの取り組み

永井美智子(CNET Japan編集部)2003年09月17日 21時30分

 幕張メッセで開催されているWPC EXPO 2003の初日となる9月17日は、携帯機器向けの燃料電池に関する各社の取り組みが紹介された。

 燃料電池は燃料と空気中の酸素を反応させて、電気エネルギーを生じさせる。エネルギー密度が高く、軽量で長時間の電源が確保できる上、燃料を注ぎ足せば継続して端末が使用できることから、電池切れの心配がないといった点で注目を集めている。

 特に携帯電話やノートパソコンなどでは、長時間利用できる携帯電源の必要性が高まっており、各社は携帯機器向け燃料電池の開発に力を入れている。NECでは6月に5時間連続駆動が可能な燃料電池搭載のノートパソコン試作機を発表し、2年以内に駆動時間を40時間にまで延ばす計画を発表している。

 矢野経済研究所が2002年8月に行った調査によれば、小型携帯機器向けの燃料電池の市場規模は2010年に440億円になるという。さらにNEC基礎研究所CNT応用研究センター長 研究部長の久保佳実氏は、「リチウムイオンやニッケル水素などによるモバイル電池の世界市場は2006年に約6000億円、2010年には8800億円と予測されており、このうち半分が燃料電池に置き換え可能とすれば、携帯燃料電池の潜在市場規模は2006年に約3000億円、2010年には4400億円になる」と期待を寄せる。

カーボンナノチューブを利用するNEC、生成水を活用する東芝

NECがWPC EXPO 2003において発表した燃料電池搭載のノートパソコン試作機

 現在携帯機器向けの燃料電池の技術として最も一般的なのが、メタノールと空気を直接反応させる「直接メタノール方式」だ。しかしこれでは、現在の携帯用電池と同じ大きさにした場合、携帯端末に必要なエネルギー量を十分に取りだせないという問題がある。この点を克服するため、各社では様々な取り組みを行っている。

 NECが取り組むのは、カーボンナノチューブの一種であるカーボンナノホーンを電極に使用することで、発電効率を高める方法だ。燃料電池では燃料に含まれる水素と空気中の酸素を化学反応させることでエネルギーを生み出すが、この際に触媒として白金を利用する。触媒はより細かいほど表面積が高くなり、反応が促進される。そこでNECではカーボンナノホーン上に白金を分散させ、触媒を微細分散させることでエネルギー発生の効率を高める方法を採用した。

東芝が3月に発表したノートパソコン用小型燃料電池

 一方東芝は、高濃度のメタノールを利用したシステムを開発し、高出力電池の小型化に成功したという。通常高濃度のメタノールを利用するとクロスオーバーと呼ばれる、出力密度が下がる現象が起きてしまう。東芝 研究開発センター給電材料・デバイスラボラトリー研究主幹の五戸康広氏によると、「現在のシステムで最適なメタノールの濃度は3〜6%」という。しかし低濃度のメタノールで長時間端末を駆動させるためには大量のメタノールが必要となり、燃料カートリッジは大型化してしまう。

 そこで東芝では、発電反応で生成される水を活用して、電池内でメタノールを希釈する方法を採用した。これにより、燃料タンクには高濃度のメタノールを少量保管し、発電に利用する際には出力に最適な濃度にできるようになるという。

燃料電池の課題は山積

 一方、カシオ計算機はメタノールから水素を抽出し、酸素と反応させる「燃料改質方式」を採用する。これにより高い出力密度が得られるほか、安全性が高くなり、必要な分だけエネルギーを発生させることもできるという。ただし、メタノールから水素を抽出するための改質器が高価であることから、「技術革新がないとコスト面ではまだ難しい」とカシオ計算機 要素技術統轄部FC開発グループ グループリーダーの塩谷雅治氏は課題を挙げた。

 燃料電池にはその他、燃料自体の安全性の問題や、衝撃や燃料の液もれ対策などの課題がある。また、燃料のカートリッジのリサイクルシステムを確立し、利用者に周知させる必要もある。さらに、塩野氏によればエタノールをコンビニなどで販売する際の法整備も必要になるという。「かなりやらなくてはならないことがある」(塩谷氏)

 カシオ計算機では2004年から2005年にかけて実証実験を行い、その実験結果を踏まえて必要な法整備などを行うよう働きかけていくとしている。燃料電池の販売は2007年から2008年頃に開始する予定としており、携帯端末向けの燃料電池が市場に普及するのは2010年ごろになるのではないかと塩谷氏は予測した。

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