「日本の将来より米国のほうが心配」、ソニー出井会長

永井美智子(CNET Japan編集部)2003年07月22日 21時48分

 日立製作所は7月22日、同社のITソリューションを紹介する「HITACHI-ITコンベンション2003」を、東京国際フォーラムで開催した。今回のテーマは「情報ライフラインはHITACHI」。同社執行役社長兼取締役の庄山悦彦氏が基調講演を行ったほか、セミナーやデモンストレーションが行われている。

 特別講演にはソニー会長兼グループCEOの出井伸之氏が登場し、日本のエレクトロニクス産業が現在直面している問題を紹介しながら、日本のIT産業の再生に向けエールを送った。

 出井氏は日本企業の現状について、「日本は不況の中というよりも、産業そのものの転換期にある」と説明する。出井氏によると1980年代中頃から、エレクトロニクス産業は垂直統合型から水平分業型へと移行しているという。その象徴がパソコンの登場だ。1980年代半ばまで「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われていた日本のエレクトロニクス産業が1990年代以降低迷が続いていることについて、出井氏は「日本はパソコン産業が意味するものを見誤った」と指摘する。

 出井氏によると、日本企業はテレビやVHSなど1つの企業が生産工程を全て手がける、垂直統合型の生産を得意としていた。しかしパソコンの場合、組み込まれるCPUやOS、ハードディスクなどは全てモジュール化され、様々な企業が分業して生産する。このような水平分業型産業では世界規模で生産が行われ、スケールメリットを持つ企業が勝ち残ると出井氏は指摘する。

半導体産業と通信技術の進歩が変化を引き起こした

ソニー会長兼グループCEOの出井伸之氏

 さらに出井氏は、現在起きている変化の背景には、半導体産業の変化と通信技術の進歩があると語る。半導体の進歩については、「ムーアの法則が続けば、10年くらいでパソコンの性能が1つの半導体の一部に収まる」と指摘。さらに「あらゆるものに半導体が組み込まれるユビキタスな環境に世の中が向かっている」と話した。

 通信技術の進歩については、帯域の拡大と無線移動通信の進化を挙げる。出井氏は日本や韓国がここ数年で通信環境が大きく変化したと指摘する一方、「米国はそんなに変化していない」と語る。出井氏は、米国の問題点として「ブロードバンドの政策がはっきりしない。携帯電話の仕組みもあまり普及していない。(音楽の違法コピーなど)著作権の保護についても問題がある」といった点を挙げる。

 出井氏はブッシュ大統領が就任直後に来日した際、朝食会に呼ばれた時のエピソードも紹介した。ブッシュ大統領に日本の将来が不安ではないかと質問された出井氏は、上記の3つの理由を挙げて「それよりも米国が心配だ」と切り返したという。出井氏は日本と米国の通信事情から、「この数年間で再度日本が米国を逆転できるチャンス」とエールを送った。

e-Japan戦略IIでは共通のサービス基盤を実現する

 出井氏は7月2日に発表されたe-Japan戦略IIについても触れ、「e-Japan戦略の第1期では物理的な通信基盤の実現を目指していた。e-Japan戦略IIではその通信基盤上に共通のサービス基盤を実現することを目指している」と趣旨を説明する。政府の取り組みに対して出井氏は「小泉首相は経済や産業に対する興味が薄いのではないか。ITと構造改革がいかに結びつくかという様々な提案をしたが、興味は示すものの今一歩前にこない」と不満を見せつつも、「共通のインフラを行政がきちんと考えれば、日本の競争力は確実に高まる」と期待を寄せ、講演を締めくくった。

 HITACHI-ITコンベンション2003は23日まで開催される。23日には日立製作所執行役専務 情報事業統括本部長の小野功氏が基調講演を行うほか、特別講演として芝浦工業大学学長の江崎玲於奈氏、韓国のインターネット関連ソリューションを日本に紹介するe-Corporation.JP代表取締役社長の廉宗淳氏が登場する予定となっている。

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