ソニー中村研究所代表が語る「日本の製造業復活の鍵」

永井美智子(CNET Japan編集部)2003年06月25日 18時24分

 「日本の得意な商品開発力を生かしたモノづくりを」‐‐‐ソニーのカラーテレビ「ベガ」シリーズの開発責任者として知られるソニー中村研究所 代表取締役社長の中村末広氏は6月25日、東京ビッグサイトで行われた「第14回 設計・製造ソリューション展」において基調講演を行い、日本の製造業復活に向け様々なヒントを紹介した。

中国は脅威ではない

 中村氏はまず、「製造業にとって中国の存在が脅威だといわれることに対して、私は否定的だ」と語る。その理由の一つは、中国市場の魅力だ。「12億人の人口のうち、約10%が『ニューリッチ』と呼ばれる富裕層だ。これはちょうど日本の人口に等しい。この層は強い購買力と購買意欲を持っており、ちょうど日本と同じくらいの購買力をもった大市場が突然現れたことになる」と中村氏は語り、「こんなに喜ばしいことはない」と歓迎の意を示した。

 さらに日本の製造業の生産拠点が中国に移管していることについても、「中国は単純にコピーできるものに特化している」と語る。中国の技術水準は「人材で圧倒的な強みを持つが、新規開発力では劣る」として、開発力の面で日本には強みがあると強調した。

組立・加工業が市場全体をコントロールすべし

ソニー中村研究所 代表取締役社長、中村末広氏

 中村氏は、現在進行するアウトソース化についても疑問を投げかける。中村氏が例として挙げたのは、台湾のコンピュータメーカーであるエイサー会長のスタン・シー氏が唱えたスマイルカーブという考え方だ。

 スマイルカーブとは、各製造過程で生み出される付加価値の大きさをそれぞれ図示すると、試作品開発や部品生産などの川上、および販売やアフターサービスなどの川下で生み出される付加価値が大きく、中流の加工・組立の付加価値は小さくなるというもの。付加価値が大きくなれば利幅も大きく、逆に組立などの付加価値の小さいものでは利幅も小さくなる。この考え方に基づき、加工・組立は大手のEMSにアウトソースする流れが強まっている。こうして「集中と選択」という名の下に、アウトソースやリストラが進んでいるという。

 しかし中村氏は、「共産主義の計画経済下であればスマイルカーブが成り立つが、実際のダイナミックな経済の下では変動性が高く、こうはいかない」と指摘。例えば部品となる半導体のうち、DRAMなどは需要の変動が激しく、必ずしも利益の高さに結びつくとは限らない。

 中村氏は、アウトソースに頼るのではなく、加工・組立業者が川下の材料市場と川上の市場変動をコントロールすることで、存在価値を高めるべきと主張する。中村氏はこの姿を、2本の刀を自在に操る宮本武蔵になぞらえ、「ムサシカーブ」と呼んでいるという。

できあがったものは製品、売れてこそ商品

 中村氏はソニーのウォークマンやプレイステーションなどの例を挙げ、新たに市場を作り出すような製品には3つの要素が必要だと話す。それは1)物理的・科学的な発明、2)開発・設計などモノを作るプロセス、3)購入してもらうためのマーケティングの3点だ。中村氏によると、1)の段階に1の力が必要だとすれば、2)の段階には10の力が、3)の段階には100の力が必要だといい、この3つが完成されて初めて創造力のある商品が生まれるという。中村氏は「できあがっただけのモノは製品、売れたら商品になる」といい、「客に売れたとき、初めてクリエイティブなビジネスを作り上げたと言える」と述べた。

 さらに中村氏は、日本の創造力の得意領域について、埋もれていた発明を商品化する「まとめ上げる力」だと指摘。例として中村氏が挙げたのは、現在デジタルカメラなどで使われるCCDだ。中村氏によるとCCDは1972年にLucent Technologiesが開発し、ソニーは1982年から量産を進めたという。その結果、1990年代のデジタルビデオカメラのヒットによって、爆発的に普及したというのだ。他にもRCAが基本特許をもつ液晶を、シャープが電卓に応用したことなどを挙げ、日本の得意な応用面での商品開発力を伸ばしていくべきと訴えた。

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