TEDを楽しむために重要な3つのツール--TED 2013レポート4日目

 TED Conferenceも4日目の2月28日。全てのセッションやアクティビティに出ながら過ごしていると、さすがに4日目は朝からくたくたになり始める。確かに朝8時30分から夜7時まで、世界から集められた新しい知やアイディアを持つ人の話を聞き続けるというカンファレンスの特性上、情報のインプットが超過してくるし、会場ですれ違って意気投合しても、そういう人がたくさんいすぎて困ってしまう。

 今日はそうしたTED Conferenceを楽しむための「ツール」について紹介したい。

「4Dプリント」「言語学の奇跡」「脱北者」など4日目

 4日目のセッションは朝の「TED University Session 2」、11時からは「Session 8:Coded Meaning」(記号化された意味)、午後2時から「Session 9:Create!」(創造!)、夕方5時から「Session 10:Secret Voices」(秘密の声)というセッションが行われた。

 初日にも行われたTED Universityは、通常のトークスタイルで、学びや学び方について触れるセッションが集められている。この中で面白かったのは、MIT Self-Assembly Lab.で「4Dプリント」を研究しているSkylar Tibbits氏。現在3Dプリンタとデータを送ることで、ものづくりの世界に変革が起きているが、Tibbits氏はさらにそこにもう一次元追加した研究をしている。データを送り込むのではなく、モノに形をプログラムするという考え方だ。宇宙での利用なども想定される(4Dプリントのデモンストレーション)。

  • 言語学者John McWhorter氏。Textで使われる「Slash」について説明。

    (提供:TED)

  • 良いスピーチには惜しみない拍手とスタンディングオベーションが送られる。

    (提供:TED)

  • Kees Moelikes氏。鴨の研究は失笑を誘いつつも、生命とは何か、を考えさせる。

    (提供:TED)

 この日のセッションは、2月27日の水曜日まで多く扱われた社会問題から、人間のクリエイティビティや思考などへ、よりフォーカスが移ってきている。Session 8では、言語にまつわる議論が行われた。中でも言語学者John McWhorter氏は、ケータイメール(Texting)で使われている「LOL」(laughing out loud、手を挙げている様子の絵文字とも)や「Slash」(「/」、話題を切り替えるときに使う)といった新しい表現について、言語が乱れている、と見るよりは新しい言語を若い人たちが作り出したと指摘した。

 日本でも、掲示板やケータイで使われる「w」(笑)や「\(^o^)/ 」(オワタ、ネガティブな意味)などが作り出されているが、「話し言葉、書き言葉に加えて『Texting言葉』を生み出した」として、McWhorter氏は「言語学の奇跡」と称した。

 Session 9では「Indelicate Conversation」というタイトルながら、トイレの話や、鴨の研究でイグノーベル賞を受賞したKes Moelikes氏が登壇するなど、下世話な話も多かった。場合によってはTEDのウェブサイトで公開されないビデオもあるので、こういった話は会場ならではの楽しみかも知れない。このセッションで多くの人に驚きを与えていたのがサイバーセキュリティのスペシャリストであるJames Lyne氏のスピーチ。

 USBメモリで簡単にPCを遠隔操作できるようにするプログラムのデモを行ったり、インターネットやモバイル、ソーシャルを利用する事でこれらの情報が筒抜けになること、そしてSNSやデーティングサイトの写真の6割にGPS情報が含まれているといった事実を紹介し、「簡単にターゲットにならないようにすることが大切」と説いた。

  • Vint Cerf氏。これまでのインターネットをふり返り、未来を語る。

    (提供:TED)

  • 北朝鮮から逃れたストーリーを語るHyeonseo Lee氏。

    (提供:TED)

 Session 10には、TCP/IPの策定に重要な役割を果たし「インターネットの父」の1人ともいわれるコンピュータ科学者Vint Cerf氏が登壇。「40年前にインターネットを描き、30年前にそれを始動させた。我々はコンピュータをつなぐ仕組みを作ったと思っていたが、実は人々をつなぐ仕組みを作ったのだとすぐに分かった」と、インターネット創生期を振り返るCerf氏。未来のインターネットは、人ではない何かとのつながりをもたらすことが明確に分かっていると指摘するCerf氏。エイリアンとの会話を待ちきれないと笑いを誘った。

 今日最も大きな反響があったのは、北朝鮮から脱出し、韓国で活動家となったHyeonseo Lee氏のスピーチ。多くの人が惜しみない拍手を送っていた。日本ではたびたびニュースで「脱北者」に関して報じられているが、欧米では情報としてあまり多く伝えられていない。また彼女の脱北体験、10年間身分を隠す生活、そして外に出て拡がった世界などのストーリーには、多くの人の感動を誘っていた。

大切なアイディアの宝庫となるパンフレット

  • プレイブック。布の装丁のリングノートのようなスタイルだ。

 TEDのメインのイベントは、選ばれた世界中のスピーカーの話を聞く、というもの。しかし1つのセッションで6人以上が登壇し、15分前後という時間で次々に新しい刺激的な情報がもたらされる。冒頭にも触れたが、情報のインプット過多に陥るのも無理はないだろう。しかしそうした、ある意味で過酷なイベントをサポートしてくれるのが、レジストレーションで配られる「プレイブック」だ。

 布張りの装丁で、中はリングノートになっており、しっかりとした紙で200ページ以上の分量がある立派なノートと言ってもいいだろう。しかしこうしたしっかりした装丁も、このプレイブックの機能、つまりシアターの椅子に座ってスピーチを聞きながらメモを取るという目的を達成するための仕掛けになっているのだ。

  • プレイブックの中身。左側にプロフィール、右側に罫線で区切られたノート欄がある。

 初日のレポートでは、後半の企業スポンサーのページをご紹介したが、前半は12のセッションでスピーチをする63人の名前とスピーチのメイントピックとなるメッセージ、プロフィールなどの情報が用意されている。そして見開きのページの右側には、スピーチを聞きながらメモを取る欄になっており、ここにアイディアを書き込んでおくことで、スピーチから取り出したエッセンスや感動したフレーズを残せる。

 ノートは、まず一番上に「RATE THIS TALK」と書かれており、「Courageous」「Inspiring」「Informative」など、14の言葉からスピーチを評価する。そして左側に「BIG IDEA」、右側に「NOTE/QUOTES」といった書き込み欄があり、効率的にノートを取ることができるフォーマットが与えられている。

 このブックを毎日持ち歩いて5日間のセッションを聞いていくと、スピーチそのものや受け取ったエッセンスが詰まった、自分だけの本が出来上がっていく。非常に長く、数の多いセッションをうまく昇華する手助けをしてくれる、そんなノートの仕組みを自然と活用していた。

 ただ、登壇者は当日までに順番が変わったり、違うスピーカーが登壇したり、ちょっとした小話を披露する人もいる。こうした変更まで追いかけきれるわけではないが、TED参加の記念以上に、自分がどんな刺激を受けたかを記録する大切な本ができあがっていくのだ。

人との出会いはTED Connectアプリで

  • TEDアプリ。イベントのスケジュール、地図を閲覧できるだけでなく、参加者とつながる機能が便利。

 冒頭で紹介した、情報過多と出会う人が多すぎるという2つの問題のうち、後者を解決するのはデジタル手段だ。TEDはiPhone、Android向けに「TED Connect」というアプリを提供している。TED.comのユーザー名でログインすると、今回のTED Conferenceに参加しているすべての人の名前とプロフィールを見ることができる仕組みだ。

 アプリでは人をブックマークしたり、その人にTED Connect上でメッセージを送ったりする機能がついており、通りかかって話が盛り上がった人を素早くメモしたり、その人にメッセージを送って、話の続きをすることもできる。キュレーターのChris Anderson氏によると、今年の参加者は3000人近くになっており、非常に大規模化しているそうだ。

 そうした中で、TED Connectの機能は参加者同士をきちんとつなぐための取り組みとして導入された。しかし、TED Connectではメールアドレスの情報は公開されておらず、メッセージをやりとりしたり、名刺交換をしなければ普通のコミュニケーションに持ち出せない点は改善すべきかも知れない。また、TED Connectアプリを使っていない人とはコミュニケーションができない。

 プライバシーを守るという観点も重要だが、ここは改善の余地があるだろう。

 ちなみに、レジストレーションするときにもらう自分の顔写真と名前が印刷されているバッジは、日本のパスに比べると非常に大きい。A6サイズほどにでかでかと文字が書かれており、少し恥ずかしいぐらいだ。しかし移動時間やランチなどの時間に人が集まっているところや、すれ違って話をするときに、すぐにこの人の名前は何か、どこに勤めているのか、ということが分かる仕掛けはとても便利だった。

 将来どこかの企業が、TEDでこうしたイベントでの人の交流を円滑にする仕組みを実験する日も来るかも知れない。

登壇者とのディナーとアフターパーティー

 得た刺激を書き留めるプレイブック、出会った人とつながるためのアプリであるTED Connect、そしてコミュニケーションのきっかけを作る大きなネームバッジ。この3つは、TEDに参加する上での非常に重要なツールとなっており、日が進むにつれて、その重要性もだんだん高まっていくことがよく分かった。

 TEDは5日間カリフォルニア州ロングビーチで開催される。期間も長いため、様々なアクティビティを用意し、参加者は退屈知らずで過ごす事ができる。4日目、2月28日木曜日の夜は、TEDに登壇するスピーカーとテーブルを囲んでディナーをするイベントが用意された。「テクノロジー」「教育の未来」などのテーマを選ぶとレストランがアサインされ、そこに行くと同じテーマを選んだ人たちと、そのテーマに興味があるスピーカーでディナーをする。

 筆者は「教育の未来」を選び、ロングビーチの中心街にあるイタリアンレストランへ行くことになった。他の人がどのテーマを選んでいるのかは分からないので、いってみて誰がいるか、という楽しみもある。着席式のディナーで、僕のテーブルの向かいはIDEOのCEO、Tim Brown氏だった。デザインの話ではなく、Brown氏から教育に関する話を聞くという体験も面白かった。

 そしてその後、アフターパーティー。3月1日金曜日が最終日で、ホテルをチェックアウトしてカンファレンスに向かうという人も少なくない。そのため、夜のアクティビティは、最終日前日が最後となる。スピーカーとのディナーのあと、コンベンションホールの向かいにあるホテルの宴会場でのパーティーが行われ、最後の夜を楽しんでいた。

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