“第2の規制緩和”で何が実現できるのか--日本通信が新たな事業戦略を発表

 仮想移動体通信事業者(MVNO)の1つである日本通信は、1月22日に事業戦略発表会を開催。今後のMVNOに関する取り組みについて説明した。

 同社代表取締役社長の福田尚久氏は冒頭、2015年末に総務省で実施された「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」の結果から、「MVNOにとって第2の規制緩和が起きている」と話す。

日本通信代表取締役社長の福田氏
日本通信代表取締役社長の福田氏

 福田氏によると、これまでのMVNOは、携帯電話キャリアが提示する接続料の算定方法が不透明であるという“接続料算定問題”、そして多様なサービス設計をする上で重要になる、HLR/HSSといった加入者管理データベースが解放されていないなどの“技術的制約”によって、「2つのギブスがはめられている状態」(福田氏)だったという。

福田氏はこれまで、MVNOに接続料算定の問題と、技術的問題という2つのギブスがはめられた状態であったと説明
福田氏はこれまで、MVNOに接続料算定の問題と、技術的問題という2つのギブスがはめられた状態であったと説明

 しかしながら、2015年に携帯電話キャリアが総務省に接続料を届け出る際、算定の根拠を提出するよう義務付けられたことで、接続料の透明性が高められることとなった。また技術的制約に関しても、HLRやHSSが「開放を促進すべき機能」に位置付けられるなど、総務省の判断によって解消の道筋がつけられつつある。

 日本通信が長年求め続けていた2つの問題が解決しつつあることから、福田氏は、MVNOに向けた新しい規制緩和によって、より自由なサービス設計ができるようになると説明した。ちなみにHLR/HSSの開放などについては、キャリアとの協議が必要なことから福田氏はその時期について明言を避けたものの、「私個人としては年内にサービスインする日程間を持っている」と話した。

 では、日本通信はこれらの規制緩和を受け、どのようなサービス戦略を展開しようとしているのだろうか。それについて、福田氏は「これまでの歴史を振り返る必要がある」と語った。日本通信は元社長で、現在は代表取締役会長を務める三田聖二氏の「様々な業種の様々な企業・組織・人が移動体通信を自ら使えるようにする」というビジョンを基にMVNO事業に取り組み、これまで総務省裁定によってNTTドコモとの相互接続を実現してきたほか、キャリア以外の店舗でSIMが購入できるよう、SIMのパッケージ販売を実施するなどの施策を展開してきた。

日本通信は、NTTドコモとの相互接続によるMVNOの事業化から、SIMのパッケージ販売に至るまで、MVNOの事業モデルを作る取り組みに注力してきた
日本通信は、NTTドコモとの相互接続によるMVNOの事業化から、SIMのパッケージ販売に至るまで、MVNOの事業モデルを作る取り組みに注力してきた

 これら一連の取り組みが功を奏し、現在では「すごい数の事業者が参入し、MVNOは市民権を得たといっても過言ではない」と福田氏は語る。しかし、MVNOのシェアを見ると、2015年3月時点で携帯電話契約数全体の2.1%にとどまっていることに加え、価格以外の特徴がなくサービスの多様化も進んでいない。「格安SIMの市場を作ったが、このまま進んでも利益を上げられる会社がほとんどなく、意味がない」(福田氏)ことから、今後はサービスの多様化競争を進める必要があるという。

 サービスの多様化を実現するには、これまで多くの技術的ハードルがあった。しかしながら、その制約は2015年に総務省が打ち出した規制緩和で解消の目途が立ちつつある。そうしたことから今後は、従来実現できなかったグローバルでのマルチキャリアSIM展開や、通話定額サービス、そしてNFCでの決済などが、MVNO独自で展開できるようになるとのことだ。

技術的制約が解決することで、セキュリティや決済、音声サービスなどMVNOが提供できるサービスの幅が大きく広がるという
技術的制約が解決することで、セキュリティや決済、音声サービスなどMVNOが提供できるサービスの幅が大きく広がるという

 日本通信は最近、自らMVNOの事業を開拓し、ビジネスモデルを提示する“MVNOのモデル事業者”から、企業向けソリューションを提供する事業者に対し、モバイル通信のプラットフォームを提供する、モバイル・ソリューション・プラットフォーム(MSP)事業を主体にするなどの事業転換を図ってきた。だが新たな規制緩和によって提供できるサービスの幅が大きく広がることから、今後は企業向けに、SIMサービスとMSPサービスを同時に提供し、総合的なモバイルソリューションを実現するための黒子としての役割を果たす「モバイル・ソリューション・イネーブラー」を目指すとのことだ。

新たな規制緩和を受けて、SIMとモバイルソリューションを同時に提供できる、モバイル・ソリューション・イネーブラーへと事業転換を図るとのこと
新たな規制緩和を受けて、SIMとモバイルソリューションを同時に提供できる、モバイル・ソリューション・イネーブラーへと事業転換を図るとのこと

 つまり日本通信は、MVNOの事業を支援するMVNEとしての役割に加え、その上で提供するサービスも独自に設計し、サービスとSIMと組み合わせてメーカーや金融機関など幅広い業種の企業向けに提供することを、今後の戦略の柱としていくようだ。具体的な事業内容としては、自社で独自にSIMを発行するとともに、国内外の複数キャリアのネットワークを1枚のSIMで利用できる仕組みを整えていくとのこと。その上でキャリアが導入しているSIMによるWi-Fi認証の仕組みなども導入し、固定・携帯などネットワークに依存しないサービスを実現するとしている。

 「これまでは接続する回線がキャリアに依存していたが、もはやその必要がなくなる。そのことが大手企業に最も喜ばれている」と福田氏は話しており、すでにいくつかの企業がこのサービスに興味を示しているようだ。

新しい日本通信のプラットフォームイメージ。独自のSIMを発行し、1枚のSIMでキャリアに依存せず幅広いネットワークで利用できるサービスを実現する
新しい日本通信のプラットフォームイメージ。独自のSIMを発行し、1枚のSIMでキャリアに依存せず幅広いネットワークで利用できるサービスを実現する

 その中でも日本通信が力を入れていきたいと話すのは、無線専用線だと福田氏。インターネットを介することなく、ワイヤレスで企業とデバイスを直接接続できる無線専用線は、有線の専用線よりも低コストで高いセキュリティを確保できることから、企業からのニーズが非常に高まっているという。

 「インターネットがもたらした経済創出効果が地球サイズだとすると、セキュアでキャリアに依存しない無線専用線の経済送出効果は宇宙規模。我々にはそれが求められている」(福田氏)として、規制緩和後はこの分野に最も力を入れていく考えのようだ。

インターネットを経由しない、無線の専用線に対するニーズが高いことから、規制緩和後は無線専用線の取り組みをより積極化していくとのこと
インターネットを経由しない、無線の専用線に対するニーズが高いことから、規制緩和後は無線専用線の取り組みをより積極化していくとのこと

 一方でコンシューマー向けの事業に関しては「スマートフォンのシェアが高いソフトバンクの格安SIMに関する要望が、MVNOから多く上がっている」(福田氏)ことから、日本通信ではソフトバンクにレイヤー2での相互接続申し入れをしているという。福田氏によると「秘密保持契約があるので開始のタイミングなどはお話しできない」そうだが、ソフトバンクのMVNOとしてのサービスは、自社ブランドの「b-mobile」では展開せず、他のMVNOに卸す形での提供となることを明らかにした。

 また福田氏は、今後の自社ブランドでのSIMサービス提供に関して「現時点では決まってはいないし、これからも強化はしていくが、もしかするとb-mobileの事業を、他のパートナー企業に面倒を見てもらう方向性もあり得る」とも話している。日本通信がB2Bの事業を主体とし、黒子に徹する方針を示していることから、今後一般ユーザーに直接サービスを提供する機会が減少していく可能性もあるようだ。

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