「ベストエフォート」が死語となる日 - (page 2)

Dr. Lawrence Roberts2003年08月29日 10時10分

なぜ「ベストを尽くす」だけではだめなのか

 この革命には、2つの重要な要素がからんでいる。まず、新しいアプリケーションの登場で一歩進んだパフォーマンスや保証が必要となってくる点だ。90年代、ウェブブラウザがIPの普及を促進したのと同じように、新しいアプリケーションはIPネットワークがどのように構築されるべきか、どう進化すべきかという方向性に大きく影響を与え続けるのである。

 新しいアプリケーションが出現間近となる一方で、VoIPやリアルタイムの対話式ビデオなどは必要不可欠になりつつある。現行のTDM(時分割多重)方式や専用線のコストを考えると、このような低価格サービスは企業にとって明るい未来を約束したようなものだ。しかしこういったサービスがいまだ成功にまで至っていないのは、IPのサービス品質が十分でないためである。他にもオンラインゲームやストリーミングビデオといったコンシューマー向けアプリケーションなど、より品質のいいインターネット回線が求められる分野は数多い。

 このようなリアルタイムアプリケーションは、インターネットならではのサービスであるにもかかわらず、残念ながら現在のインターネットアーキテクチャでは安価で安定したサービスを提供することは不可能だ。しかし、このようなアプリケーションが消え去ることはない。こういったアプリケーションの開発者は、インターネットがすべてのメディアやアプリケーションをいつでもどこでも安定したパフォーマンスで提供できる環境が整うことを切望しているのである。

 新たなインターネット革命におけるもうひとつの重要な要素は、プロバイダがIPを使ったビジネスモデルへの取り組みに対し、これまで以上に真剣になっていることだ。世界中のプロバイダはみなコスト削減に頭を悩ませているのと同時に、プレミアムサービスなどで新たな収入源を追求し続けている。プロバイダにとって現在のインターネットの構造は、単なる金食い虫と化しているからだ。たとえばPtoPの出現で、プロバイダにとってあまりお金にならない一般ユーザーがファイル交換を行い、ネットワークの渋滞を引き起こすようになった。それでもプロバイダは、他の優良顧客へのサービス品質を保つため、より良いネットワークの管理対策が必要となるわけだ。顧客から得る収益が同じであるにもかかわらず、ネットワークを増強し続けるというのは、ビジネスとしてあまりおいしい話ではない。

いま必要とされるもの

 そこで、Caspian NetworksやForce10 Networks、Laurel Networks、Vivace Networksといった企業が、新たなネットワーク製品を市場に投入しはじめた。これら企業が提供する製品で、ユーザーは一般のテレビ放送並みの品質でインターネットビデオなどのリアルタイムメディアが利用できるようになる。また、ATMやフレームリレーを介することなく、ハイパフォーマンスが保証されたVPNが利用できるのだ。このような次世代ルータは、新たなレベルで確実な品質を保証するもので、単に落ちない、クラッシュしないというだけのものではない。

 その次世代ルータとは、ATM並みのサービスをIPの世界に提供し、きめ細やかにトラフィックをコントロールすることができるはじめての製品だ。従来のベストエフォート型のルータと違い、これら新製品はIPのサービス品質を保証するものである。たとえば、重要なトラフィック用に帯域網を常に開けておき、渋滞した時にはすべてのパケットを保存しておく。さらに高機能を備えたものには、ネットワークに負荷をかけるトラフィックを検知し、必要に応じてペナルティを課すものや、すべてのブロードバンドユーザーが平等にネットワークを使えるようにするもの、他のユーザー全体に影響を与えるほどネットワークを渋滞させるような接続が特定の場所からあった場合、新たな接続を受け付けないようにするものなどがある。

 「とにかくベストを尽くすんだ」と私の両親は言う。私が絶対にいい成績を取るといい、100%医者になると保証していたら両親もさぞ喜んだに違いない。これと同じような保証がやっとインターネットの世界でも実現される。パパもママもこれで喜ぶこと間違いなしだ。

筆者略歴
Dr. Lawrence Roberts
インターネットの生みの親で、現在Caspian NetworksのCTO(最高技術責任者)

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