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IT革命を日本経済の活性化につなげるために必要なこと

2003/05/30 13:03
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この記事は『RIETI(経済産業研究所)』サイト内に掲載された「IT革命を日本経済の活性化につなげるために必要なこと」を転載したものです。

 平成15年度税制改正で、企業が行うIT投資に対して10%の税額控除などが受けられるIT投資減税が創設された。これまでの制度だと中小企業のハードウェア投資にしか認められなかったが、すべての企業によるソフトウェアも含めたIT投資が対象となるという点で画期的なものといえる。

 本措置により、企業の最先端のITシステム導入が進み、日本経済全体の活性化に貢献することが期待される。ただしIT投資が経済のパフォーマンスに直結するとは限らない。IT革命を日本経済活性化につなげるために政府のできることは何か?

■IT革命と日本経済の長期的低迷

 半導体集積回路の集積度が1年半で倍になるというムーアの法則に代表されるように、情報技術の進展は目覚しい。また90年代後半からのインターネットの爆発的な普及に見られるように経済のIT化は急速に進んでいる。一時はITバブルが崩壊したといわれたが、米国における生産性は、2000年後半からの景気後退局面においても引き続き上昇を続けている。90年代の米国経済における戦後最長の好景気は、IT革命による経済構造の変革の影響によるものとするニューエコノミー論に対しては、経済学者の間でも概ねサポーティブな見方がされている。

 一方で90年代以降、日本経済は暗澹たる状況が続いている。経済成長率は80年代の4%台から1%台に落ち込み、雇用情勢は戦後最悪といわれている。日本経済は、90年代後半から特に顕著に見られるIT革命の恩恵を受けていないのであろうか? 筆者の推計によると、マクロレベルで見た日本経済の生産性は、90年代後半以降上昇していることが確認されている。同時に経済成長率に対するIT投資の寄与度の上昇も見られ、少なくともマクロレベルで見ると米国と同じ現象が観察されている。

■日米で違う非製造業のパフォーマンス

 しかし、産業レベルで見ると日米におけるITと生産性の関係の違いが明らかになる。マクロレベルの生産性上昇は、技術革新が著しいIT産業によって引っ張られているところが大きい。これは日米両国に共通して見られる現象である。

 ただし、米国においては流通業や金融業などのサービス産業もマクロレベルの生産性向上に大きく貢献している。マッキンゼーの調査によると、米国経済の90年代を通じた生産性の伸びの約4割は卸小売業と証券業の動向で説明される。

 その一方で日本においては、IT産業以外に生産性を大きく引っ張る産業は見あたらない。IT産業以外の業種では、旺盛なIT投資は見られるが、それが産業レベルで見た生産性上昇につながっていないのである。特に90年代後半を見ると流通業や金融業は逆に経済全体の足を引っ張っている状態である。

 日本経済の特徴は、生産性の高い輸出産業を中心とした製造業と、効率性が低い非製造業が共存していることであるが、この産業間の生産性格差はこのところ拡大してきている。厳しい国際競争に晒される製造業においては、生産システムのIT化やサプライチェーンシステムの構築などにより生産性の向上が見られる。

 その一方で、流通産業や金融関係のような生産性の低い非製造業においては総じてITの有効活用が進んでいない。日本経済全体のパフォーマンスをITによって向上させるためには、非製造業における競争環境を整備することが重要である。

■非製造業の規制改革とイノベーション

 米国の小売業の生産性向上をより細かく見ると、ウォルマートに見られるようなGMS(General Merchandise Store)の躍進が大きく影響している。それも特に新しい店舗ほど生産性が高く、新規開業店舗の効果が大きいといわれている。ウォルマートは、ITを駆使したウェアハウスマネジメントシステムやベンダーとのサプライチェーンマネジメントが有名であるが、シアーズなど同業他社の追い上げに対して次々と新たなアプリケーションを開発することで対抗している。ITを用いた新たなビジネスアプリケーションを生み出すことによって生産性の向上を実現しているのである。

 一方で日本の小売業界には、大規模店舗調整法という出店規制が存在しており、企業間のイノベーション競争が行われる環境が整備されていなかった。大規模店舗調整法は2000年に廃止されたが、依然として中小小売業を保護するための小売商業調整法や医薬品、酒類、米穀類等の特定の物品に関する小売免許制などの数々の規制が存在する。これらの規制は、必要最小限のものにとどめ、事業者間の健全な競争環境を整備すべきである。

 『日本経済 競争力の構想』(日本経済新聞社、安藤晴彦コンサルティングフェローと共著)でも述べているように、米国の非製造業における規制改革とイノベーションの好循環は、流通業にとどまらない。電気通信、電力、航空運輸、金融サービスなどにおいても、規制改革によって新たなイノベーションが生まれ、それぞれの産業の生産性上昇に貢献している。航空運輸におけるCRM(Customer Relationship Management)や金融派生商品などそのイノベーションのほとんどはITを駆使したものである。

 ITシステムの導入はそれ自身が企業パフォーマンスを向上させるものではない。あくまでもそれを利用するビジネスイノベーションを伴ってはじめて効果を発揮するものである。日本経済において特に競争力が低い非製造業においては、企業間のイノベーション競争を促進する環境が整備されていない業種が多く残っている。IT投資による経済活性化を図るためにはこれらの業種における規制改革を加速させ、企業がイノベーションにチャレンジする土壌を整えることが重要である。

著者略歴
元橋 一之
一橋大学イノベーション研究センター助教授 、RIETI(経済産業研究所)上席研究員


RIETIサイト内の署名記事は執筆者個人の責任で発表するものであり、 経済産業研究所としての見解を示すものではありません
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