マイクロソフトのLinux対策、外交面は意外と健闘?

 Microsoftにとって、Windowsの海賊版コピーがあふれた世界以上の悪夢があるだろうか?

 米国外におけるWindowsの著作権侵害問題で2003年、Microsoftは少なくとも数千万ドル規模の出費を強いられることになりそうだ。これは同社経営陣が高い関心を示すのに十分な額ではあるが、年商284億ドルのMicrosoftにとっては大した金額ではない。

 だが、現在最もパワフルなソフトウェア企業である同社にとって、それより最悪の事態が存在する。それは、世界中がLinuxであふれてしまうことだ。

 ペンギン族やコラボレーティブソフトウェア主義者が世界を征服する日はまだ遠いが、彼らは確実にその道を築きつつある。実際一部の国では、プロプライエタリなソフトウェア以外に適切なソフトがない場合を除き、オープンソースあるいはフリーのソフトウェアの使用を命じる法の制定を検討している。

 このような動きがなぜBill Gatesの怒りに触れているのか、簡単に想像できるだろう。つまりこのままでは、世界各国でオープンソースソフトウェアが受け入れられ、1990年後半にJanet RenoがMicrosoftを法廷に引きずり出して以来、Windows OSの独占市場が最も危険な状態に陥る可能性があるのだ。

 Steve Ballmerが連邦政府司法長官に向かって「クソくらえ」と言い放ったあの頃は、Microsoftもまだわんぱく坊主だったといえる。同社のマナーの悪さを露呈してしまったこの一件は手痛い失敗とされ、Microsoftはこれ以降同じミスを2度とおかさないようにしている。

 あの頃に比べれば、Microsoftは各国政府とのやりとりに驚くほど見事な手腕を見せている。オープンソースの盛り上がりに少しでもブレーキをかけるため、同社は今年1月、Windowsのソースコード共有計画を明らかにした。Microsoftがこれまで、相手のメールアドレスに.govがつこうが.comがつこうがあらゆる外部の人間に対し、自社の“秘伝ソース”を一切公表しなかったことを考えると、これは衝撃的な条件付降伏にも見える。

 しかし、現実はそうではない。

 Microsoftの発表した政府向けのソースコード開示プログラム、Government Security Programは、同社OSのセキュリティに対して不安を抱いている世間一般へ向けて対応を示しただけだと同社では主張している。各国政府はこのプログラムを通してWindows 2000、Windows XP、Windows Server 2003、Windows CEのソースコードを閲覧できるようになっている。また、このソースコードを使ってそれぞれのWindowsバージョンを構築することもできるし、Microsoftが通常は公開することのないセキュリティのドキュメントを見ることもできる。

 Microsoftは、自社の成し遂げた業績に控え目になりすぎているようだ。

 ある意味これは、顧客が直面する一般的なセキュリティとコストの問題にMicrosoftが対応しているという、純粋に技術的な話であるようだが、実はそれだけではない。各国政府のソフトウェア分散化の動きは、自国の利益を考えた上でのことなのだ。これら国々にとってMicrosoftは必要な企業ではあるが、所詮は“アメリカの”企業である。それならば、自国を含め数多くのソフトウェアインフラに分散してもよいではないか、となるわけだ。

 特に中国は、Windowsに秘密の“バックドア”コードが存在するのではないかと過敏になっている。このコードで、米国政府が中国政府のコンピュータから情報を取り出すことができるのではないかというのだ。大げさに聞こえるかもしれないが、中国では現実にそう感じているのだ。中国政府は、Linuxやその他のオープンソースソフトウェアに対してはこのような疑いの目を向けなくなる。プロセス中に何が起きているのかをユーザー自身が確かめられるからだ。

 Microsoftに外交政策担当者は存在しないが、優れた外交の覚書を作るアイディアに富んだ人がいたのだろう。同社はこれまでのところ、中国、ロシア、NATO、英国の各政府とソースコード開示プログラムの契約を締結しており、他にも30以上の政府や行政区、組織と交渉したという。

 このような各国の反応は、情報開示への関心が高まる中Microsoftがそれにうまく対応し、広報活動において点数を獲得しつつある証拠だといっていいだろう。言うまでもないことだが、同社は今後細心の注意を払って外交政策を進めていく必要がある。GatesやBallmerは、特に中国に対し著作権侵害を厳密に取り締まるよう迫りたいところではあるが、それをどううまく伝えるかというところに課題が残る。下手をすると相手が怒ってLinuxディストリビューターと契約してしまうこともあるからだ。

 Microsoftの取り組みがオープンソースの成長に歯止めをかけられるかどうかはまだわからない。それより気になるのは、この取り組みが果たして十分なのか、また遅すぎはしなかったかということだ。

筆者略歴
Charles Cooper
CNET News.com解説記事担当編集責任者

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