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IT企業のM&A戦略

2003/01/15 18:46
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 バリュエーション(企業価値の評価)というのは不思議な仕事だ。1990年代、投資銀行では表計算ソフトを最大限に利用して評価を正当化する努力を続けていた。時には驚くような考えもあったものだ。

 例えば2000年12月、通信機器メーカーのCienaはオプティカルスイッチングシステムの開発会社であるCyras Systemsを26億ドルで買収した。当時Cyrasに収益がなかったにもかかわらず買収に踏み切ったCienaだが、これは同社が将来的な収益を期待してのことだった(現在もその期待の結果が出るのを待ち続けているようだが)。

 ここ数年で評価はかなり妥当なものになってきた。実際のところ、バリュエーションという振り子は両極端に揺れ動いていた。上記の例も極端だが、逆にしっかりしたビジネス基盤を持った企業を評価額以下で売るというのもどうかと思う。

 株式市場というものは、必ずしも常識のある場所ではない。経済学者の結局はケインズが言うところの「動物的勘(アニマルスピリッツ)」で動いていたりする。

 このような否定的意見を弁護するためにも、市場が安全になってきたことを宣言するマーケットリーダーが必要だった。そして、どうやら2002年12月にIBMがRational Softwareを21億ドルで買収すると発表したことがきっかけとなり、IT市場に動きが見られるようになった(IBMにとって今回の買収は、同社が1995年に35億ドルでLotusを買収して以来最大の取引である)。

 IBMの発表以来、特にソフトウエア産業を中心にIT関連企業のM&Aが活発化している。年末にはYahooが大金をはたいてInktomiを買収するという興味深い動きもあった。IBMは市場取引が安全だと示したのに加え、評価基準を作るという重要な役割も果たしたことになる。

 今までM&Aを検討する際に大きな課題となっていたのは、企業の評価額をどのように決めるかということだ。他社との比較で企業価値を算定しようとすると、過剰評価されているドットコムと比較するしかなかった。つまり買い手が正当な取引を行う方法はなかったと言っていい。また、評価額が再び上昇するのではないかという考えを捨て切れない売り手もいた。

M&Aが安全だということを示したことに加え、IBMはとても重要なことをした。企業価値評価の基準を確立したのだ。

 今回のIBMの買収はバリュエーションのいい基準となった。Rationalの過去1年間の売り上げは6億2500万ドルと見られており、IBMはその約3.3倍の金額を支払ったことになる。私はこれを「3倍要因」と呼んでいる。

 3倍要因とは、合併や買収(M&A)を決定するミッシングリンクだ。例をあげて説明しよう。ある投資会社ABCプライベート・エクイティー・ファンドは他の投資会社同様多くのキャッシュを持っている。彼らはM&Aをしようと考えているが、最終的な出口(エグジット)の戦略でつまずいていた。バリュエーションは確かに説得力がある。しかし、本当にその値段で売れるのだろうか。IPOというのも手だが、確実にキャッシュが手に入るわけではない。

 では買収した企業を、IBMのような大企業に転売するというのはどうだろう。IBMがRational買収を発表した際に同社は、買収は新しい「オンデマンド戦略」を進めるためだと語った。つまり、M&Aであると同時にR&Dでもあったということだ。戦略名はさまざまだが、MicrosoftやOracle、Sun Microsystemsまでもが同様の動きを見せ始めている。

 大企業への転売という出口戦略が見えたところで、次にその戦略に沿った具体的なM&A案件を考えなくてはいけない。例えばコンテンツ・マネージメント・システムの大手企業Vignetteは時価総額が約3億7千万ドルだが、同社の株式に興味を持つ人は少ない。

「3倍要因」はM&Aを決定するミッシングリンクだ。

 しかしよく調べてみると、同社は3億6000万ドルのキャッシュを抱えている。ABCファンドはまず4億7000万ドルで買収話を持ちかけ、同社の3億ドルを使って投資家への支払いや債務の支払いなどをすればよい。つまりVignetteを1億7000万ドルで買収できるということだ。次にABCファンドはVignetteをリストラクチャリングしてスリム化すればいい。(実際には同社で既にリストラが行われているが。)

 Vignetteの年間売上は約1億7000万ドル。ここで3倍ファクターを使って計算すると、同社は5億1000万ドルの価値があることになる。元手が1億7000万ドルということを考えれば、かなりいい取引だといえる。

 このような市場の真似事が役に立たないことはわかっている。道端にいきなり50ドル紙幣が落ちているわけはないと主張する学者がいるであろうことも知っているが、経験豊富な投資家なら私が何を言いたいのかよくわかっているはずだ。声を大にして3倍ファクターを主張している投資家がいても不思議ではないのだ。


著者略歴
Tom Taulli
南カリフォルニア大学ビジネススクール教授(ファイナンス、M&Aを指導)。近著に「The Complete M&A Handbook」(Random House)がある。また、MergerForum.comでM&Aに関するWebサイトを運営している。

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