コンテンツ業界に「アマチュアによる革新」を--伊藤穰一氏が訴え

永井美智子(編集部)2008年07月30日 23時13分

 「インターネットの登場で(コンテンツの)流通コストが下がり、コラボレーションもしやすくなった。それまで大企業しか入れなかった世界にアマチュアも入れるようになった。好きだからやるというアマチュアのほうが、面白いものができるかもしれない」――7月29日から北海道札幌市で開催されている、著作権のオープン化に関する国際会議「iSummit 2008, Sapporo」においてCreative Commons CEOの伊藤穰一氏が講演し、コンテンツ分野における「アマチュアイノベーション」(アマチュアによる革新)を呼びかけた。

 伊藤氏によると、アマチュアの語源はラテン語の「amator」(愛好家)。つまり、「お金のためではなく愛のためにやっている人たち」(伊藤氏)だ。

Creative Commons CEOの伊藤穰一氏 Creative Commons CEOの伊藤穰一氏

 これまで書籍や音楽、映像などのコンテンツを制作し、流通させるには、コンテンツ自体の制作費に加えて、書籍やDVDなどのパッケージにする費用や、それを保管する費用、全国の販売店に配布する費用など、多額の投資が必要だった。このため、必然的に企業がビジネスとして行うのが一般的だった。

 しかしインターネットを使えば、これらの流通コストはほとんどかからない。つまり、プロでなくても気軽にコンテンツを作り、配布できるようになったのだ。同じ土俵に立てるのであれば、より情熱を持っている人のほうが面白いものが作れるのではないか――伊藤氏はそう考えている。

 また、アマチュアには身軽さという武器もある。伊藤氏はLinuxやGoogleが学生の個人プロジェクトから始まったことを例に、「たとえば企業があるシステムを開発しようとすると、まず数億円をかけてその事業をやるべきかどうか調べ、数十億円から数百億円を投資して開発する。こうなると失敗できないから、イノベーションが生まれる速度も遅い。しかしアマチュアが試しにやってみて、失敗したとしてもお金はそんなにかからない」とアマチュアならではの強みを指摘する。

 「インターネットは、失敗するコストを下げた」(伊藤氏)

 ただし、アマチュアがコンテンツを制作する上では、著作権の問題が壁となる。「たとえば放送局のコンテンツを使いたいとなると、1つ1つ使用契約を結ぶ必要があり、弁護士などの費用が必要になる。こういった契約コストが(現在は)非常に高い。ブログなどの登場でやっと誰でもウェブサイトを作れるようになったのに、著作権の問題で価値を作り出せない状態にある」(伊藤氏)

 そしてこの問題を解決する手段の1つが、クリエイティブ・コモンズライセンスであると伊藤氏は話す。クリエイティブ・コモンズライセンス下のコンテンツであれば、利用者は著作権者にいちいち許可を求めなくても、一定の条件下で自由に利用できる。これがアマチュアによる創作を加速する、というわけだ。

 ただし著作権者側には、クリエイティブ・コモンズライセンス下でコンテンツを公開すると、収益を得ることが難しくなるのではないかという懸念がある。これに対して伊藤氏は、クリエイティブコモンズライセンス下でコンテンツを無料で公開しながらも、収益化に成功しているという事例を2つ紹介した。

 1つは米国の著名バンド「Nine Inch Nails」のアルバム「Ghosts I-IV」だ。36曲のうち9曲を無料で公開し、36曲すべてをダウンロードする場合は5ドル、2枚組CDは10ドル、4枚組みのLPなどを付けた限定版CDは300ドルで販売したところ、2500セット用意した限定版はすぐに売り切れた。Ghosts I-IV公開直後の1週間の売り上げは1億6000万円に達したという。しかも流通業者を間に挟んでいないため、この売り上げのほとんどはアーティストの収入になったとのことだ。

 もう1つはフィンランドの学生らが制作したという映画「Star Wreck: In the Pirkinning」だ。「STAR TREK」のパロディーとして作られたこの映画をインターネット上で無料公開したところ、400万ダウンロードされるほどの人気となった。これを受けてUniversal Picturesがライセンス権を買い、映画をDVD化したほか、テレビ放送や劇場放映もされる事態になったという。

 「無料で配ったからといって、お金にならないわけではない。ネットの世界には、いろいろなビジネスモデルがある」(伊藤氏)

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