著作権保護期間の延長は「毒入りケーキ」か

 著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラムなど主催のシンポジウム「著作権保護期間延長の経済効果―事実が語るもの」が10月12日、東京・三田の慶應義塾大学で開催され、保護期間の20年延長に対する様々な視点の研究成果および事例分析が報告された。

 特に来場者の関心を集めたのが、朝日新聞be編集部の丹治吉順氏による「本の滅び方――保護期間中に書籍が消えていく過程と仕組み」と、三菱UFJリサーチ&コンサルティング芸術・文化政策センター長の太下義之氏による「シャーロック・ホームズから考える再創造」だ。いずれも具体的な事例を元に、著作権期間延長の「弊害」をわかりやすく訴えた。

071015_tyosakuken1.jpg朝日新聞be編集部の丹治吉順氏

 「あの力道山(プロレスラー、没後45年経過)や芦田均(元首相、没後48年経過)の著作物すら、今は出版されていない」。丹治氏は、死後50年から70年に延長する議論が持たれている著作権保護期間について「毒入りケーキ」と表現した。

 「一見、甘そうな誘惑に見えるが、実際には一部の有名作家・作品だけが売れる生々しい弱肉強食の世界。大半の作家・創作者にとって毒であり、消費者にとっては毒そのもの」(丹治氏)。

 報告で示したデータによれば、没後に作品が出版されている作家・創作者全体の1%にあたる上位20人(江戸川乱歩、吉川英治など)が、出版部数では46.5%を占める「超寡占状態」にある。作家全体の上位5%にまで広げると、部数対比で75%に跳ね上がり、実質的には「ほんの一部の人間しか得をしない」という延長議論の現実を実証した。

 丹治氏は「作品の生命は読まれ続けることでつながるもの。作家が生んだものを、読者が育てる」とし、著作権によるしばりが読者と作品を切り離す存在になる危険性を示唆した。

071015_tyosakuken2.jpg三菱UFJリサーチ&コンサルティング芸術・文化政策センター長の太下義之氏

 コナン・ドイルが生んだ世界的名探偵「シャーロック・ホームズ」について「古今東西通じて最も多くのパロディが生み出された作品」とし、その分析から「再創造」ビジネスへのアプローチを示した太下氏。

 過去の事例や経緯を紐解くことで「優れた再創造は経済的波及効果を生む」「著作権保護期間が長くなることで相続人増加などを招き、権利者関係が複雑化する」「再創造された作品が優れたものである場合、著作権者側が当該作品を見過ごすことができなくなる」という3つの仮説を導き出し、現在の著作権議論における課題へと話をつなげた。

 特に来場者の関心を呼んだのが「優れたパロディは見過ごされない」とした3点目の仮説。ギリシャ神話になぞらえて「※ウラノスの災い」と名づけられたこの仮説では、現代における実例として「ドラえもん最終回騒動」「ワラッテモイイトモ」(類似名のテレビ番組映像を利用したサンプリング作品。「キリンアートアワード」審査員特別優秀賞)などを挙げ、保護期間長期化が実現することで優れた再創造作品が生まれなくなる危険性があるとした。

 なお、当日発表された内容の論文は「著作権保護期間延長問題を考えるフォーラム」のウェブサイトで公開中。

 ※ ギリシャ神話において、天空の神ウラノスが自らの子・ヘカトンケイルを「見ているとどうにも嫌でたまらない」との理由で大地の底に押し込んでしまった、という話。パロディ作品に対する創造者のジレンマとかけた表現だ。

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