著作権保護問題は欧米に迎合せず、日本モデルを策定すべき

 著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラムなどが主催するトークセッション「日本は『世界』とどう向き合うべきか?−アメリカ年次改革要望書、保護期間延長論、非新告罪化を手がかりに−」が8月23日、東京・三田の慶応義塾大学で開催された。今回、主なテーマとなったのは、著作権保護の枠組みが欧米主導で行われていることに対して日本がどう対応すべきかという点だ。

 パネリストからは「(米年次改革要望書に記された、著作権保護期間を)権利者死後50年から70年とせよとする要望は米国自身が利益を得るための内容であり、日本の国益、文化発展につながるものかどうかを考えるべき」(東京大学教授の中山信弘氏)など慎重論が相次ぎ、海外の動向に翻弄されることなく「日本発のモデル」を生み出すことが大切との方向で議論をまとめた。

非親告罪化は著作権の主旨に反する

東京大学教授の中山信弘氏 東京大学教授の中山信弘氏

 文化庁文化審議会メンバーでもある中山氏は、国内動向について「海賊版の流通などは社会的に悪影響を及ぼすものとして懸念されており、方向性としては米国の要求どおりの方向に向かっている」と説明。その上で「権利者の判断ではなく国(および警察)の独断で著作権の侵害を検挙できるという非親告罪化は、(権利者を保護するためという)本来の著作権意義を逸脱した内容になる恐れがある」と指摘した。また、権利者死後の保護期間を20年延長する議論については「20年延長して利益を得るのはほんの一握りの人たち。むしろ、20年も著作物が使えなくなることによる不利益の方が大きい」と否定的な見解を示した。

 自発的なライセンス発行などによりインターネット上のコンテンツ流通を促しているクリエイティブ・コモンズ・ジャパンからは理事のドミニク・チェン氏が参加。日本のコミックマーケット(コミケ)について「いわば権利者の『おめこぼし』でありながら、素晴らしい発展を見せた好例」と評価。コミケ市場を根底から覆しかねない非親告罪化を牽制した上で、世界的にも人気のある日本のアニメについて「(より柔軟な考えを持つことで)さらに大きなビジネスに発展するチャンスがある」とした。

070824_takase3.jpg社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会専務理事の久保田裕氏

 権利者代表の立場で参加した社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会の専務理事である久保田裕氏は「法律・ルール面の整備だけではなく、技術的な保護手段の開発や啓発・教育活動も同時進行されるべき」とし、著作権保護期間の延長議論、非親告罪化ともに慎重な構えに終始した。延長議論については、協会内でも「過去の著作物を利用して新たな作品を創造する会員もおり、賛否両論」と説明。直接的な保護強化策となりえる非親告罪化についても「親告罪だからこそバランスが保たれている」との否定論を展開した。

 中でもパネリストの一致した方向性が見られたのが、欧米が主導するモデルに日本が迎合しているという現状認識だ。「(審議会などで)欧米モデルに乗らないのは恥ずかしい、という意見が頻繁に出る。戦後60年経っても敗戦コンプレックスが抜けていない」(中山氏)、「アニメの世界的人気を見れば、日本は強者の立場。胸をはって自国のスタンダードを打ち立てるべき」(チェン氏)など、欧米主導のモデルに迎合する方向性を厳しく批判した。久保田氏も「恥ずかしいという感情論の前に、現行のルール下における取り締まり体制をしっかりと構築すべき」との立場を崩さず、ニューヨーク州弁護士の福井建策氏が「(パネリスト同士の)対立軸がなかった」と振り返った。

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