これからのメディアミックスは携帯電話とPCへシフトする--ニコニコ動画との共存も - (page 2)

 ただし「龍が如く」はこうした業界の風潮に挑戦状をたたきつけた作品なのかといえば「それはノー」。むしろ「現状のゲームの扱う分野はスポーツ、SF、ファンタジー、歴史物、そして恋愛ものと5種類くらいしかない。これだけでは面白くない」という理由を挙げた。また、ゲームは表現媒体として優れているにも関わらず、こうした枠にとらわれている現状、また「ゲームは大人になったら卒業するもの」という考え方に強い不満を抱いているという。

 一方、近年の暴力的ゲームの代表的作品である「Gran Theft Auto」(GTA)シリーズは好きではないとのこと。龍が如くでは「自分から喧嘩を売れない」「人間ドラマがある」といった違いをつけているという。ただ、GTAが全世界で認められた理由のひとつとして「ゲームの世界でどんな反社会的なこともできる」という点をあげ、「これを世界の500万人のユーザーが認めた。暴力を全肯定するという作り方はすごい」とした。

 また、ゲーム製作者としての立場ではどうしても「マルチ言語」「マルチフォーマット」「全年齢」という考え方で企画を立てる癖が染みついてしまっていて、結果として“寝ぼけた”物になってしまうという業界全体の問題点も指摘した。

 龍が如くの実写映画とのメディアミックス展開については「映画とゲーム、面白い物を楽しんでもらう点では一緒」としながら、作品のテイストを維持するためにコミカライズのオファーはすべて蹴り、アニメでもなく実写映画にこだわった点を強調。今後のメディアミックス展開にはテレビに注目しているという。「モニターがなければゲーム産業はあり得なかった。ユーザーが座っている位置を攻めていきたい」と語った。

「勝ち組メディア」と「負け組メディア」をどう組み合わせるか

小学館の久保雅一氏 小学館キャラクター事業センター・センター長の久保雅一氏

 久保氏は「ポケットモンスター」のメディアミックス展開で大成功している。その経験からメディアミックスへの考え方を述べた。まずメディアミックスでもっとも難しいのはクリエイターとのつきあい方であるとした。優秀なクリエイター同士の共同作業でメディアミックスはうまくいくが、クリエイターは制限の多い仕事はしたがらないし、お金で動くわけでもないという点を指摘する。

 こうした上で効果的なメディアミックスを行うには各メディアの特性を把握し、適切な制作会社と協力的なパートナー企業を引き合わせ、さらに権利と責任、リスクと収益配分を明確にすることが重要であるとした。

 各メディアの特性については細かい数字を上げて説明が行われた。日本のコンテンツ産業の市場規模はほとんど横ばい状態で足踏みしている。内訳をみると、映像関連は2005年頃に頭打ちになり、音楽や音声コンテンツは低調のまま、ゲームはニンテンドーDSががんばっているものの横ばい状態。図書やテキストコンテンツは「携帯電話のがんばり」により右肩上がりだという分析があった。 また、各分野の細目を見ると、旧来からある雑誌、テレビ、映画、CDといった分野は衰えを見せる一方、携帯電話やPCでのデジタル配信といった分野が大幅に伸びていることが分かるという。こうした「勝ち組メディア」と「負け組メディア」をどう組み合わせていくかがメディアミックス成功のカギとなると述べた。

 ポケットモンスターでの例では「携帯電話についてはまだうまくできてない」としながらも、ライバル番組の時間帯にメールを出して注目をそらしたり、オフィシャルサイトの充実に億単位の予算をかけていると説明。また、すべての劇場でニンテンドーDS向けに限定のポケモンを配信することで今年の興行収入が現時点の暫定ながら1位という事例の紹介もあった。

 3名の発表の後にディスカッションが行われ、司会の日経ビジネスAssocie副編集長の降旗氏からの質問により活発な議論がなされた。中でもYouTubeやニコニコ動画といった動画共有サイトについては3名とも比較的肯定的な意見が出ていた。

 久保氏は「YouTubeは相当の人が見ている。現状でも予告編などの配信は行っているが、作り手のレールの上に乗っていると思われると反感を買う。一方、新しいことにチャレンジすることはユーザーから好感を持たれる」、滝山氏は「あまり目くじらは立てたくない。権利者には権利者の考え方があるが、作品の注目度が上がることで作品の勢いも上がる。パートナーシップを持って行っていくならアリ」、名越氏は「自分もよく見ている。今はユーザーが『臭いをかぎ取っている』ためバランスが取れていると思う。リアルタイムマーケティングの手段として活用できると思う」と、それぞれの視点から興味深い意見が聞かれた。

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