こうして、米国向けにまったく新しいウェブベースのサービスを開発、提供することに決めた。ただ、それをインフォテリア本体に説得し、理解してもらうには苦労があったようだ。
そこで江島氏は、社内ブログを活用した。何を自分が考え、どういう思いでこの考えに至ったかを、延々と社内ブログに書き連ねていったという。
「力のある言葉は、コードと同じくらい重要だ」
具体的にはまず、社内システムの構築という受託ビジネスが20年後には存在しなくなるという危機感、そしてイノベーションとなる技術はコンシューマ市場から起こるという信念を説明していった。
ただ、ウェブベースのサービスの場合、最も課題になるのが収益化だ。ソフトウェアを販売して収益を上げるインフォテリアの収益構造とは大きく異なるモデルであり、理解を得るのに最も苦労したようだ。
この点について江島氏は、30年前のソフトウェア業界を引き合いに説明した。「昔は、ソフトウェアは単体ではお金にならず、あくまでもハードウェアのおまけだった。当時のソフトウェアベンチャーのゴールはIBMに会社を売却すること。当時もがいていなかったプレーヤーは現在残っていない。逆にいえば、当時がんばっていた人が今も支配的な地位にある。今収益が見えないということが、(そのサービスを)やらない理由にはならない」
そうして開発したのが、Lingrというチャットコミュニケーションサービスだ。2006年9月にサービスを開始し、APIを公開したことで多くの対応アプリケーションも生まれた。
ただ、ユーザーの伸びは期待ほどではなかったという。当初1年後にユーザー数10万人、うち70%が英語ユーザーで、同時接続数が1万件程度になると予想していたが、実際のところ、ユーザー数は9000人、日本語ユーザーが70%で、同時接続数は600人程度にとどまった。
江島氏はLingrについて、「これはこれで完成したモデル。いじくりまわして訳の分からないものにはしたくない」と話す。課題は残るものの、Lingrの機能を改善、追加することで、複雑になってしまうことを懸念する。なお、Lingrの状況について江島氏は、CNET Japanブログ「江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance」のエントリ「リリースからの一年を振り返って」でも紹介している。
次の一手として江島氏は、「根本的にモデルを変えたい。まったく新しいアプリを作る」と話す。具体的な内容については明かさなかったが、「Lingrで学んだことをベースに、もっと時代に合ったものを作りたい」とし、新サービスでの巻き返しを誓っていた。
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