「2004年を音楽配信元年に」--交錯する音楽レーベルと配信事業者の思惑 - (page 2)

永井美智子(CNET Japan編集部)2004年08月19日 17時00分

  米国で音楽配信が人気を博した理由の1つに、1曲ずつ楽曲が買える利便性がある。日本に比べて米国はシングル盤が普及していない。全米レコード工業界(RIAA)のレポートによると、2003年のアルバム出荷量が7億4590万枚であったのに対し、シングルの出荷量はわずか830万枚。一方、日本のアルバム出荷量は2億2712万枚、シングル出荷量は8813万枚だ。単純に計算しても、米国のシングル市場は日本の10分の1の規模でしかない。

  好きな曲を1曲ずつ購入できるサービスは米国のユーザーにとって目新しく、逆に言えば日本のユーザーには大きなアピールポイントになりにくいと言える。

  日本特有の事情としては、CDレンタルの存在が挙げられる。米国ではさほど広まっていないCDレンタルも、日本では多くの人が利用している。JASRACによれば貸レコードにおける2003年度の楽曲使用料収入は32億9771万円という。

  レンタル価格はシングルCDが150円程度、アルバムCDでも300円程度からと安く、店舗は住宅街や駅前など便利な場所にある。さらに深夜・早朝でもレンタルや返却が可能だ。NTTコミュニケーションズ コンシューマ&オフィス事業部 IPサービス部 担当課長の星名信太郎氏は、「時間を問わずに音楽が購入できるという音楽配信のメリットも優位性が薄れてしまう」と苦しい胸のうちを明かす。

  さらに日本では再販売価格維持制度(再販制)の問題もある。再販制はメーカーが小売価格を決定できる制度で、国内では著作物である音楽用CD、レコード、音楽用テープ、書籍、雑誌、新聞の6品目に限り再販制が認められている。音楽配信についての規定はないが、CDと同じようにレーベルが価格を決めている場合がほとんどだ。このため競争原理が働かず、価格が下がりにくい。楽曲配信の中心価格帯は1曲200円〜270円程度、アルバムが1500円〜2400円程度だ。

  これに対し、米国ではCD等に関して再販制がなく、小売店が自由に価格を決めている。楽曲の配信価格は1曲79〜99セント、アルバムでも9ドル99セント程度と日本に比べて手頃な価格となっている。

  米国では日本に比べてDRMもゆるやかだ。iTMSを例に取ると、CDに何枚でもコピーすることができ、ポータブルデバイスへの転送回数にも制限はない。5台までであればPC間での共有も可能だ。ソニーが5月に米国で開始したConnectでも、10回までCDにコピーできるようになっている。このため、ダウンロードした楽曲をCDに移して車の中で聞いたり、オーディオセットで楽しんだりすることが可能だ。

日本のサービスは米国並みになるのか

  日本で今後、米国のようなサービスが登場する可能性はあるのだろうか。再販制の問題に関しては、新しい動きも出てきている。

  東芝EMIでは音楽配信を再販制の範囲外とし、配信事業者側に価格決定権を委ねるようにした。希望小売価格の提示は行うものの、実売価格は配信事業者が決めている。「可能な限り広く楽曲を販売したいという考えから、価格や配信の仕組みなどは事業者に任せている」(東芝EMI副部長の山崎浩司氏)。これにより、例えば宇多田ヒカルの「First Love」がMoraでは270円、OCN MUSIC STOREでは260円といったような価格差も生まれている。

  ただし、ユーザーの希望が多いCDコピーについては、各社の姿勢は慎重なままだ。あるレーベル関係者は、「CDをコピーして友人に貸したいという考えもあるだろうが、音楽配信は購入しやすい価格になっている。我々は1人1人に楽曲を販売したい」と本音をのぞかせる。

  レーベル会社が今年になって音楽配信に腰を据えて取り組み始めた裏にも、CDへのコピーの問題があったと話す関係者もいる。「AppleがiTMSを日本で展開する際にはCDへのコピーを許可するよう求める。そうなる前に手を打ちたいという思惑があった」というのだ。

  米国では曲ごとに料金を支払うダウンロード型のほかに、月額料金を支払えば無制限で楽曲が聞けるストリーム型もある。これについても、日本での展開は難しいようだ。国内ではまだ、配信事業者が収益をレーベルに分配するための細かい仕組みができていない。ダウンロード型ならば1曲につき収益の数十%という分配が可能だが、月額固定課金では一定のルールが必要になるからだ。「米国でもiTMSのように大成功したストリーム型サービスはない」と東芝EMIの山崎氏は話す。

  日本ではむしろ、着信メロディで一般的になった「1000円で5曲」のようなサブスクリプション型が登場するというのが関係者の一致した見方だ。

携帯電話が市場拡大の鍵を握るか

  配信事業に参入した企業は、「音楽配信はまちがいなく日本でも普及する」と口を揃える。ただし問題はその波がいつ来るか、そしてそのきっかけを誰が起こすのかという点だ。

  日本の音楽配信市場はまだ立ち上がり段階にある。Moraの月間ダウンロード数は8月に約17万曲となる見通し。1999年に国内レコード会社として初めて音楽配信事業を開始したソニーミュージックエンタテインメントのbitmusicでも、月間平均ダウンロード数は約7万件だ。エキサイトやNTTコミュニケーションズではダウンロード数を公表していないが、月間数千件とみられる。

  野村総合研究所の調査によれば、2003年の国内音楽配信市場規模は15億円。2006年に大きな伸びを見せ、2008年には883億円に達するとしている。これは2003年のオーディオレコード総生産額(約3996億円、音楽配信を除く)の4分の1弱にまで成長する計算だ。

  音楽配信が普及する1つのきっかけになりそうなのが、携帯電話への音楽配信だ。楽曲を着信音にする着うたは、KDDIのauで7月に累計ダウンロード数1億曲を突破した。同サービスは2002年12月に開始され、約20カ月での大台突破となった。また、端末側ではPCでダウンロードした楽曲をメモリカードに転送して再生できる機種も出てきている。海外ではAppleとMotorolaがiTMSの楽曲を携帯電話に転送することで合意した。

  KDDIはauの第3世代携帯電話向けに楽曲をまるごと1曲配信するサービスを来年にも開始するといわれている。端末の電池持続時間や保存容量などの点でポータブルオーディオプレーヤーにはかなわないが、端末に直接ダウンロードできる点で利便性は高い。市場を拡大する1つのきっかけとなりそうだ。

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