「IPマッカーシズムを止めよ」、レッシグ教授が講演

永井美智子(CNET Japan編集部)2003年12月02日 18時23分

 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)は12月2日、都内においてGLOCOMフォーラム 2003を開催した。基調講演にはスタンフォード大学ロースクール教授のローレンス・レッシグ氏が登場し、情報化時代における知的財産権のあり方について講演した。

 レッシグ氏はインターネット上の知的財産権に関する活動家として名高く、Microsoftの反トラスト法訴訟では裁判所から「スペシャルマスター」に任命されたこともある。山形浩生氏が日本語訳を行った同氏の著書「CODE ― インターネットの合法・違法・プライバシー」や「コモンズ」は日本でも話題を呼んだ。

 レッシグ氏は「情報化時代の知的財産権は保護すべきか、共有すべきか」という今回のフォーラムのテーマについて、「保護と共有のどちらも重要だ」と語る。レッシグ氏が問題としているのは、技術が進化しているにも関わらず、法律が変わっていないという点だ。「どんな形で法を技術の進化に合わせ、クリエーターが創作する機会を維持するかが問題だ」(レッシグ氏)

スタンフォード大学ロースクール教授のローレンス・レッシグ氏

 しかし米国政府の中では「反知的財産=反アメリカ的」という風潮が生まれているとレッシグ氏は言う。「『IPマッカーシズム』がワシントンで起きている。知的財産の活用に関するシステムのあり方についてまともに議論することができない状態だ」(レッシグ氏)。

 現在の米国の法律では、使用目的が営利・非営利を問わず、著作物を複製したり、改変する場合には著作権者の許可が必要となる。出版物の場合、それを読んだり人に貸しても法に触れることはなかった。しかしインターネットではコンテンツを見たり、人に見せようとした場合、サーバ上でコピーが発生してしまうため、法律に違反することになってしまう。

 また、技術の発展に伴って音楽や映像などの分野では新たな表現が可能になっているとレッシグ氏は指摘する。例としてレッシグ氏は、ブッシュ米大統領とブレア英首相の映像をつなぎ合わせて、2人が1つの曲をデュエットしているように見せた、ある反戦歌のプロモーションビデオを紹介し、「こういった映像を作るために、著作権者に許可を取らねばならない。新たな技術によって生みだされたクリエイティビティが規制によって阻害されている」と警告した。

 レッシグ氏が注目するのは、許可を得ることなく漫画やアニメのキャラクターを使って独自の物語を発表している日本の同人誌だ。「(規制がクリエイティビティを阻害している)この状況も日本では少し違うのかもしれない。日本では漫画の同人誌が法規制を受けることなく広まっている。これはとても不思議なことだ」(レッシグ氏)。規制がないことで日本では同人誌の巨大市場が生まれ、漫画の需要が喚起されているとレッシグ氏は分析した。

「著作権がクリエイティビティを阻害してはならない」

 レッシグ氏は、著作権をなくすべきと訴えているわけではない。「著作権は必須だが、クリエイティビティが邪魔されてはならない」(レッシグ氏)というのが同氏の立場だ。そこで、現在の体制の中でもコンテンツのやりとりを自由に行えるものとして同氏が提唱するのが、クリエイティブ・コモンズだ。

 クリエイティブ・コモンズは著作権者が認めた場合、誰でもそのコンテンツを自由に共有したり、再利用できるという制度だ。クリエイティブ・コモンズには一般の人が読むためのCommon Deed、法律家が読むためのLegal Code、マシンが理解するためのDigital Codeがあり、Digital CodeはRDFで公開されている。Common Deedは日本語化もされており、著作権者が指定した条件で、コンテンツを配布できる。また、Legal Codeも日本語版が来年の1月15日に公開される予定だという。

 この制度において重要なのは、著作権者がコンテンツを自由に使ってもらう権利を選べることだとレッシグ氏は語る。「著作権は文化の発展のためにつくられたものだ。極端主義を打破し、IPマッカーシズムを止めなければならない」と訴えた。

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