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IPログ保存で2ちゃんねるは変わるか

2003/02/25 00:00
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 巨大匿名掲示板サイト2ちゃんねるに、変化がおきている。

 2ちゃんねるは、2003年1月7日から全書き込みについてIPアドレスの記録、保存を始めた。IPアドレスとは書き込みをした人のサーバに関する情報のことで、身元を追跡するために使われる。つまり、2ちゃんねるは匿名の掲示板ではなくなったのだ。

 2ちゃんねるの最大の特徴は、書き込みをした人の身元が特定されない匿名システムを採用している点にあった。匿名(「名無しさん」と呼ばれる)で投稿ができるほか、一部のスレッドを除いてIPアドレスを記録せず、個人の追跡が不可能な完全匿名の掲示板である点を売り文句にしていた。匿名であるがゆえに機密情報など様々な情報が集まり、現在は月間6億ページビューを超える巨大な掲示板へと成長している。しかし一方で、無責任な誹謗中傷や犯罪予告などの書き込みも多く、問題となっていたことも事実だ。

 2ちゃんねるがIPログの保存を始めたのは、東京都内の動物病院との裁判に敗訴したことが大きく影響している。同病院は2ちゃんねるの書き込みによって名誉を傷つけられたとして、管理人である西村博之氏に損害賠償を求めた訴訟を起こした。東京地方裁判所は2002年6月、西村氏が書き込みをした個人を特定できないようにし、被害の発生を予防する措置を怠ったとして、その責任を認め400万円の賠償を命じた。西村氏は東京高等裁判所に控訴したが、高裁は西村氏の訴えを棄却。西村氏は現在、最高裁判所に上告している。

 西村氏は高裁での棄却を受けて、2003年1月より2ちゃんねる内のすべてのスレッドにおいて、書き込みを行った利用者のIPアドレスの保存を始めた。完全匿名であるという特徴をなくしたことは、2ちゃんねるにどのような影響を与えるのだろうか。2ちゃんねるの管理人である西村氏に、IPアドレスの保存を始めた経緯とその影響、今後の変化について聞いた。

――まず、IPログを保存するきっかけとなった裁判について聞かせてください。争点は何でしたか?

 簡単に言うと、2ちゃんねるで情報が書き込まれて被害が発生した場合、それは誰の責任下において起こったのか、という点ですね。こちら側の主張は、書いた人に責任があるというもの。それに対して原告側の主張は、書いてある文章を載せている掲示板が悪い、つまり掲示板の管理人に責任があるというものです。

 裁判所の判断は、「書いた人を特定できない状態にしているのは掲示板だから、書いた人の責任も管理人が一緒に負うべき」というものでした。裁判所は、IPアドレスが分かれば書いた人を特定できるのに、管理人はそれをせず措置を怠ったのだから、僕にも責任があるという判決を下したんです。

――いつ頃からIPログを保存する準備をしていたのですか?

 2ちゃんねる内を検索できるシステムを作ろうという話が去年の春頃からあって、元々はそのために準備をしていました。検索ができるようになると、いろいろな書き込みが発掘されやすくなります。その問い合わせにいちいち応えていると大変なので、IPアドレスを取ることで対応しようと思っていたんです。ただ、タイミングとしては東京地裁で敗訴したことは大きいですね。

――IPアドレスによってどこまで個人が特定されるものですか?

 こちら側では個人を特定することはできません。どこのプロバイダから書き込まれたかが分かるだけです。具体的な個人情報はプロバイダが管理していますので、警察がIPアドレスの問い合わせに来たらIPアドレスとプロバイダの連絡先を教えて、あとは警察がプロバイダに照会することになります。最近も大阪で1件、栃木で1件つかまりましたね。

 ちなみに、問い合わせに応じるのは公的機関からの問い合わせ(警察の捜査関係事項照会書または裁判所の令状がある場合)だけです。個人や法人から問い合わせがあっても「警察か裁判所の書類がないと教えられません」と伝えます。他のプロバイダなども同じ対応を取っていると思いますよ。

――IPログの保存を始めてから、2ちゃんねるに何か変化はありました?

 犯罪予告が増えたんですよ(笑)。それまでは半年に1度くらいだったのが、IPログの保存を始めた1月から今までの1カ月半の間に4、5件ありました。

 こちら側としてはむしろ、IPログを保存することで書き込みにくくする狙いがあったんです。書き込みが減ることをある程度期待していました。IPアドレスを取られるということは、その人の書いた内容について責任追及ができるということですから、犯罪予告や他人に対する誹謗中傷が減るとか、きちんとしたことを書くようになるのではないかと期待していたんです。実際は全然変化がないですね(笑)

――書き込みの量を減らしたいと?

 量が減ってほしいというより、面白くない書き込みが増えるのをどうにかしたいんです。ただ、内容が面白いかどうかというのは主観的なものなので、技術的にフィルタリングできるものでもなく、どうしようもなかったりするんですよね。質を上げるのに技術的な方法があれば採用するんですけど、特に思いつかないですし。

 IPアドレスを取ることで、面白い書き込みが増えてつまらない書き込みが減るという、数値化できない部分を期待していたんですが、失敗に終わったということで・・・。

――2ちゃんねるの売りの一つに、書き込んだ人を特定できない「完全匿名」の掲示板だという点があったと思うのですが、それはなくなりましたよね?

 そうですね。ただ、IPログは前から一部、裁判所の命令や警察から依頼のあったスレッドなどで保存していましたし、一般ユーザーから他人のIPアドレスが見えないという点では変わりがありません。

 むしろ、僕が危惧しているのはサーバがクラッキングされるリスクがあることですね。今まではサーバを覗かれても困るようなものは何もなかったけれども、今は保存したIPログを見られる危険があるので。

 2ちゃんねるのアクセス数は相変わらず右肩上がりで伸びていますし、IPログを保存するためにサーバの負荷が増え、セキュリティコストも高くなって、書き込みの質は上がらない。失敗でした(笑)

――IPログを保存することで、今後2ちゃんねるにおける西村さんの責任は回避されるようになるんですか?

 裁判所はそこまで踏み込んだ判決は出していないので、分かりません。今回の裁判に関して言うと、裁判所は「IPアドレスが分かれば書いた人が分かるかもしれない。そこの最後の手段を切ったのはお前だ、だからお前が責任を取れ」という判決だったんです。

 IPログを保存することで、「僕はその人につながる手段を残しておきましたよ。でも結局犯人が捕まらなかったのは、プロバイダや警察の責任ですよね」という責任転嫁ができるんです。また、もし個人が特定されれば、裁判を起こされて損害賠償が発生した場合にその人からお金を取ろうという可能性が生まれる。

 ただ、本当のことを言うと、IPアドレスから書き込みに使われた端末の特定はできても、本当にその人(容疑者)がその書き込みをしたかというのは、状況証拠しかないんですよね。そういう意味では、結局個人を特定することはできないんです。

 最終的には、IPログがあっても誰が書いたかは分からないというオチになると思います。僕がIPログを保存していても、結局犯人は分からないということになる。そうなれば、僕が犯人を特定できないようにしたということではなくて、結局最初から犯人なんて分からないものだったんだという話になる。

 参考にできる判例もなく、法律論もできない状態ですから、そういう場合に裁判所はどういう判断をするか。そこは興味あるところですね。

――現在、他にどのくらい裁判を抱えているんですか?

 全部で6件、賠償請求の総額は約7億7000万円です。

――もし裁判に全敗したら、2ちゃんねるは潰れるんですか?

 どうでしょうね。サーバの費用が払えなくなったら、2ちゃんねるは潰れると思うんですよ。ただ、広告クライアントからは、2ちゃんねるで使うサーバを契約している会社に直接お金を払ってもらう形に変えはじめているので、僕を経由しないんです。

 サーバに対して判決が出れば、2ちゃんねるで利用しているシアトルのサーバを差し止めることができますが、日本の判決は日本国内にしか適用されません。そこまで想定して海外にサーバを置いたわけではなくて、結果的にそうなったんですけどね。

 他に考えられる手段としては、2ちゃんねるのドメインを財産とみなして、その財産を差し押さえるという方法があります。ただしこの場合は、具体的な金額算定をどうするかという問題と、2ちゃんねるのドメインがある「.net」の管理団体は海外にあるという問題があります。日本で決まった事項に対して、彼らが従うかという問題ですね。

――総額7億7000万という数字についてはどう考えますか?

 払えないラインを超えれば、あとはいくらになっても一緒なんですよ。もし僕が誰かにお金を借りていて、それを返せというのであれば、きちんと払おうと思うんです。けれどそうではないので、判決が出ようとも僕の中で払う気はないんですよ。書き込みをした人に責任があるという自分の主張は変わらないので、そこで「1円でも払わない」というラインは多分変わらないと思います。

 ただ、自分から差し出す気はないけれども、財産を差し押さえて持っていく分には勝手にどうぞという感じですね。あとは僕に対して請求権を持っている人がその権利をどう行使するかという問題ですから。

――今の状況は、2ちゃんねるを作った初めの頃に考えていたこととは違うものですか?

 当時は常時接続が珍しかったんです。まだADSLがなくて、常時接続といえば、NTTのテレホーダイくらいしかなかった。インターネットの回線をつないだ分だけお金がかかっていたので、掲示板に書き込む時にはオフラインでちゃんと文章を推敲して、掲示板に書いたらすぐ切断するという感じだった。書くのにも読むのにもお金がかかった時代でしたから。ちゃんとした文章を書くとか、きちんとしたものを伝えるという文化があった。

 今はもう、そういう文化はないですね。思った瞬間に書くので、質がどんどん下がっている。それはもう仕方のない問題だと思うので、現状を受け入れていくしかないですね。

 2ちゃんねるは、僕がどうしたいという方向とは完全にずれて行っていますから、ユーザーがどっちを向いているのかという問題ですよね。今後については、彼らが行く方向に仕方なくついていって、後始末をする人になるんだろうなという気はしています。

――これからも2ちゃんねるを続けていきたいと思います?

 多分、僕の中でゲームになっているんですよ。こういう状況においてどういうふうな行動をしたらどうなる、っていう。2ちゃんねるがどうこうと言うより、2ちゃんねるがこのままどうなるかっていうゲームになっている、という感じですね。

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