PostgreSQL開発者に聞く、8.0の新機能と今後

藤本京子(CNET Japan編集部)2004年09月21日 16時15分

 カリフォルニア大学バークレー校の研究室で開発が始まり、のちにオープンソースコミュニティの手に渡って現在まで開発が続けられているPostgreSQL。今年8月には、約1年ぶりのメジャーなバージョンアップとなる8.0のベータ版がリリースされた。2001年までの開発のフォーカスは、SQL標準に準拠するという点に置かれていたが、その後はPostgreSQLをよりエンタープライズに適した環境で利用できるよう、パフォーマンスの改善、保守・管理の簡素化、ノンストップ運用などの実現をめざした開発を行ってきたという。ユーザーの意見も多く取り込み、8.0ではWindows環境のサポートも実現している。

PostgreSQLの開発メンバー。左から、イアン・ヴィック氏、ブルース・モムジャン氏、石井達夫氏

 大幅なバージョンアップの正式リリースを前にして、PostgreSQL開発の中心メンバーとなるブルース・モムジャン氏とイアン・ヴィック氏が来日した。日本人の開発メンバー石井達夫氏も加えた3人の開発者に、新バージョンについて、また今後のPostgreSQLの行方について聞いた。

8.0の目玉はWindowsのサポート

 8.0の新機能のなかで最も注目度が高いのは、PostgreSQLがWindowsをネイティブでサポートするようになることだ。PostgreSQLはUnixベースのOSには15種以上対応していたが、Windows環境で利用するにはCygwinというUnixエミュレータを利用する必要があった。しかし、CygwinでPostgreSQLを使う場合は、インストールが複雑で機能に制限があるうえ、パフォーマンスも十分ではなかった。Windowsをネイティブサポートすることで、これらの制約から解放されることになる。

 Windowsのサポート以外にも同バージョンには新機能が備わっている。それは、Tablespace、Savepoint、Point-in-time Recoveryなどの機能である。Tablespaceは、データを異なったドライブに分散させるための機能。データのタイプ別にディスクを設定することができ、負荷分散が可能となる。Savepointは、トランザクションの一部を巻き戻しすることができる機能。エラーの可能性が高いステートメントの前にSavepointを指定しておくと、エラーが発生した場合もSavepointまで戻ることができる。Point-in-time Recoveryは、継続的にバックアップが可能となる機能で、間違ってデータを消去してしまった場合も直近の作業までデータのリカバリが可能となる。

 「To-Doリストで緊急度の高かった機能はすべて8.0に組み込んだ。今回のバージョンアップは、非常に大きなものだ」とモムジャン氏はいう。

 PostgreSQLをベースとしたWindows対応製品としては、SRAがPowerGresを商品化し、2002年11月より販売している。Windows対応のPostgreSQLとして評価されていたPowerGresだが、PostgreSQLがWindows対応となることでPowerGresの位置づけは変わってくるのだろうか。PostgreSQLの開発メンバーであり、かつSRAのコンサルタントという肩書きを持つモムジャン氏に聞くと、「SRAとしてのゴールは2つある。1つはPostgreSQLのプロジェクトを成功させることで、もう1つは顧客に最適なソリューションを提供すること。PowerGresパッケージを多く売ることがゴールではない」という。「PostgreSQLとPowerGresには異なった顧客ニーズがあるだろう。パフォーマンスはPowerGresのほうが良いということもあり、Linux版PowerGresの売れ行きも悪くない。Windows版PowerGresも同じ道をたどると見ている」(モムジャン氏)

 また、他のデータベース製品と比べた場合にPostgreSQLが有利な点を聞くと、ヴィック氏は「インストールのしやすさ、使いやすさ、管理のしやすさに加え、サポートが手に届く位置にあることだろう」という。困ったときにメーリングリストに質問を投げかけると、コミュニティからすぐに返事が戻ってくる。直接開発に関わっているメンバーからのサポートを受けることも容易というわけだ。

今後のPostgreSQLはどうなる?

 大幅なバージョンアップを果たしたPostgreSQLの開発チームメンバーが、次に考えていることは何なのか。「ほとんどの主要機能はすべて8.0に盛り込んだので、しばらく休暇を取るのもいいかもしれない」とモムジャン氏は笑い、「実際のところ、しばらくコードをいじらずに置いておき、様子を見ることも必要だ」とヴィック氏はいう。しかし、彼らのTo-Doリストには、Vacuumプロセスの自動化や、データウェアハウス分析機能、ビューを更新可能とすることなど、今後も追加されるであろう機能が多く記載されている。

 また、日本語を母国語とする開発者、石井氏は、「現在PostgreSQLは1データベースにつき1言語のみの対応となっているが、これを多言語対応とすることが次の大きなミッションとなるだろう」と述べる。

 さまざまな新機能が追加されたPostgreSQL 8.0の正式リリースは、「11月頃になると見ている。遅くとも今年中に出ることは確実だろう」とモムジャン氏は述べた。

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