FuelBandは2012年2月に発売され、大きな需要が発生した。レビューの内容も好意的だった。Nikeは2013年11月に発売した後継機種の「Nike+ FuelBand SE」でも絶賛を博した。
しかし、2011年秋の時点では、同社のデジタルフィットネス分野への取り組みにおけるソフトウェア面の核であるNike+の運命は、それよりもはるかに不利な状況にあった。
Nike+には、同期やログインの失敗、サイトの動作が全体的に遅いことなど、さまざまな問題があった。当時、同社の「Nike Running」担当バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーだったJayme Martin氏は、そのことを謝罪する書簡の中で、「ユーザーの皆さんと同様、われわれも自身に対し極めて高い基準を課している。現時点では、Nike+はそれらの基準を満たしていない」と述べた。
FuelBandは、歩数やカロリー燃焼量の記録機能など、ハイエンドのフィットネスデバイス向けのあらゆる機能を、低価格でしゃれたフォームファクタに詰め込んだデバイスだった。NikeはFuelBandで、製品への取り組み方を一変させた。Nikeは、フィットネス愛好家が熱望していたデバイスの発売によって、Nike+プラットフォームの技術面を徹底的に見直す作業を中断しただけでなく、フィットネスデバイス軍拡競争の最前線に一気に躍り出た。
FuelBandは、ユーザー生成データを取得できる、リストバンド型デバイスを軸に展開される新しいライフスタイル製品、さらにそうした活動を中心に構築されるサービスの象徴的な存在となった。FuelBandが売れれば売れるほど、Nike+のユーザーとNikeの中核的製品の見込み客も増えた。
Piper JaffrayのNike担当アナリストであるSean Naughton氏は、「FuelBandはNikeにとって、革新を必要としていた分野で革新を実証する機会となった。Nikeの最終的な狙いは、そのユーザーコミュニティーから得たデータと情報を活用して、より多くのフットウェアやアパレル製品を販売し、顧客が関心を持っている製品を開発および提供することだ」と述べた。
その戦略は期待通りの成果を上げているようだ。Nike+のユーザー数は2800万人以上に増加したほか、Nikeは現在、製品ラインアップの拡充も開始しており、女性向けワークアウトトレーニングアプリ「N+TC」などのiOSおよび「Android」向けアプリや、「iPhone 5s」の「M7」モーションプロセッサを利用して、FuelBandとほぼ同じデータを収集するiOS専用アプリ「Nike+ Move」を公開している。
Nikeはソフトウェアによって市場を牽引していくことを目指している。これにより、NikeのFuelBandやスマートウォッチへの取り組みは、同社が当初より促進しようとしているものに比べ、さほど重要ではなくなる。促進しようとしているものとは、スマートフォンに搭載されたアプリから始まり、足に履くシューズと上半身に着るシャツで終わるNikeのエコシステムのことだ。
強力な健康管理機能はこれまでFuelBandのようなデバイスでなければ実現できなかったが、今ではスマートフォンでそうした機能の多くを提供することが可能だ。そのため、フィットネストラッカーを発売することは、ウェアラブル分野で存在感を発揮するための必要条件ではなくなった。Nike+ Moveだけでなく、2013年にUnder Armourが1億5000万ドルで買収した「MapMyFitness」のような、急速に成長しているコミュニティーも、そのことを証明する好例だ。
Credit SuisseのアナリストでNikeウォッチャーのChristian Buss氏は、「この種のアクティビティトラッカーデバイスは、ブランドが抱える大きな問題の1つを解決する。それは、どうすれば個々のユーザーと親密に関わることができるのか、という問題だ。それは、単にブランド選好を強化していくこととは異なる。『これがあなたのアクティビティパートナーだ』と言われるのは、これまでの関係とはと大きく異なる」と述べた。
その目標を実現するために、Nikeは同社の270億ドルという年間売上高にほとんど影響を及ぼすことのない150ドルのデバイスを消費者に売る機会よりも、同社のプロプライエタリなワークアウト測定基準「NikeFuel」とそれを軸に構築されたフィットネスライフスタイルブランドの方が高価値であると判断する可能性が高い。
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