テレビ事業の分社化とPC事業の売却--ソニーの決断を読む

 ソニーが発表したテレビ事業の分社化とPC事業の売却は、同社の構造改革が最後の砦にまで及んだことを意味する。

 今のソニーにとっては、長年にわたり根幹をなしてきたエレクトロニクス事業の“顔”となる領域にも分社化、売却という最終手段とも言える方法で大鉈(おおなた)を振るわざるを得ない状況となっているのだ。

 ある関係者は「かつてのソニーであれば、テレビ事業の分社化なんてことは絶対に考えられないことだった。PC事業の売却だって同様だ」と語る。それだけソニーにおけるテレビやPCの位置付けが変わり、それほどソニーの経営状態が疲弊していることの証しなのだろう。

 「あと1年待てば、ここまでやる必要はなかったのではないか」との声も聞かれるが、代表執行役社長兼最高経営責任者(CEO)の平井一夫氏は「待つ」という選択はしなかった。

 実際、ソニーの経営は逼迫している。

 テレビ事業は10年連続の赤字。今回発表した連結業績の通期見通しの下方修正では、最終損益を300億円の黒字から1100億円の赤字とした。営業利益は通期800億円の黒字を見込むが、「エレクトロニクス事業の黒字化は困難な状況」とする。必達目標としていた2013年度のエレクトロニクス事業、そしてテレビ事業の黒字が未達となった今、もはや「1年待つ」という選択肢はなかった。

平井一夫氏
ソニー 代表執行役社長兼CEO 平井一夫氏
加藤優氏
ソニー 代表執行役 エグゼクティブバイスプレジデント CFO 加藤優氏

分社化と売却という違いはどこから来たのか

 だが、テレビとPCでは、その手の打ち方には大きな差が生まれた。

 テレビ事業は、ソニーグループの子会社として分社化し事業を存続。それに対して、PC事業は収束。ソニーから「VAIO」を冠したPCは、2014年春モデルを最後に登場することはなくなり、約17年間にわたる「SONYのVAIO」は幕を閉じる。

 分社化と売却――。この差は何だったのか。

 それは平井氏が目指す「One SONY」を考えた場合、それを構成するピースのひとつにテレビは位置付けられたものの、PCはそうなりえなかったという点に尽きる。

 テレビ事業は、4Kを軸に今後の再生戦略を描くが、その中で平井氏は、「テレビは引き続き、リビングルームにおける視聴体験を実現する上で重要な役割を果たすとともに、技術的資産は他の商品カテゴリにおいても当社の差異化技術として活用される」と述べる。まさにOne SONYの中で不可欠な製品と位置付けているのだ。

 そして、黒字化の道筋にも光が見え始めている点も分社化にとどめた理由のひとつだろう。

 2011年11月時点でマイナス1750億円、2011年度末時点でもマイナス1475億円あったテレビ事業の損失を、現時点でマイナス250億円まで追い込んだ。「2年でブレイクイーブンにするという計画は達成できていないが、赤字幅は6分の1に圧縮。一定の成果はあったと判断している」と最高財務責任者(CFO)の加藤優氏は語る。

 平井氏も「この2年の施策を通じて、テレビ事業の再生への道筋は見えている。テレビ事業は、正しい方向に向かっており、軌道に乗っている」とする。

 再生へのあと一歩を分社化という崖っぷちの立場でやり遂げ、名実ともにエレキの“顔”として再生させるというシナリオとも言えまいか。

VAIOはどうなるのだろうか

ソニーらしさを発揮できなくなったVAIO

 これに対して、PC事業はこれからのソニーにとってOne SONYを構成する要素にはならなかった。

 平井氏は「VAIOは、常にソニーらしいと言われる製品を創出し、他のPCとは違うデザイン、機能、フォームファクターを実現し、PC市場に一石を投じてきた」と自己評価する。だが、この発言は過去を指したものであり、現在、未来を感じさせる発言ではなかった。

 つまり、コモディティ化したPC市場では、もはや「ソニーらしさ」を発揮できる製品が創出できなくなり、One SONYを構成する要素にはならないと判断したとも言えるだろう。

 「モバイル領域ではスマートフォンとタブレットに集中する」と平井氏は語る。One SONYの構成要素としてタブレットを選択し、PCは切り捨てたというわけだ。

 では、今後のVAIOはどうなるのだろうか。

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