2013年広告・PR業界注目のキーワードは?--必然だった「戦略PR」への注目

本田哲也(本田事務所代表取締役)2013年02月08日 15時00分

 2013年がいよいよ幕を開けた。2011年の東日本大震災以降、ますます多様化する消費者のインサイト、スマートフォン普及の加速、実名性ソーシャルメディアの大躍進。

 昨年ほぼ話題を独占した感のある「LINE」は、とうとう登録ユーザー数が1億人を突破した。

 なんとも躍動感のある中スタートする2013年だが、広告・PR、マーケティング、メディア業界において注目すべきキーワードはいったい何だろうか? 今回のコラムはそれをテーマに、調査データも交えた僕の考えを話してみよう。

 「宣伝会議」新年号に掲載された、「2013年 注目しているマーケティングキーワード」の調査結果では、「2013年に注目している」「2013年に 注力したい」キーワードともに、1位は「OtoO (Onlime to Offline)」が選出された。

 2位が「戦略PR」。次いで3位が「ターゲティング広告」、4位が「ソーシャルリスニング」と続く。

 1位の「OtoO」については、古くは「クリック・アンド・モルタル」(2000年に提唱されたので実に13年前!)の発想から続いている話であり、正直、「何をいまさら」という感がなくもない。ここからは私見だが、「OtoO」がここで1位になる背景には、「さらなるネットとリアルの融合と拡張」という美しいイメージに加え、実は「業界全員の利害が一致する」ということがあるんじゃないかと思う。

 「OtoO」という考え方は、これまでの「ネットかリアルか」「既存メディアかニューメディアか」「EC直販かリアル流通重視か」といった、一連の二元論を凌 駕する。

 要は、業界みんなにとって「気持ちいい」話なわけだ。いかにも日本的と言えなくもないが、この1位は、「注目している!」というよりは、「一票いれとこ・・・」というニュアンスに近いような気がしてしまう。もちろん、今後より具現化すべきだということに疑いはないのだが。

 そして2位の「戦略PR」。こちらも正直、意外な結果だった。僕が「戦略PR」の方法論を、「空気づくり」と称して、書籍の発刊を機に提唱し始めたのが2009年の1月。

 実に4年前である。「戦略PRブーム」などと呼ばれ、いっときの流行のように認識されたときもあった。

 この4年で多くの企業が導入し成果を検証し、結果的に「定着」することを僕たちは支援してきた。

 そういう立場としては、これも同様に「なにをいまさら」という気分になってしまう。

 しかしながら、いまだに注目・注力したいキーワードの筆頭であるということは、成果の手ごたえを感じた企業がいること、そしてまだまだチャレンジしよう としている企業も多いことを示唆している。そう考えれば、これからも大きな可能性を秘めていると思う。

 さて、ここで戦略PR会社の代表としては、「今年もメシが食える」とホッとしてもよいのかもしれないが、これから起こるマーケティングの変革はそんな甘いもんじゃない。

 実は僕が個人的に注目したいのは、上記の1~4位のキーワードのどれでもない。

 それは「注力したい」で5位、「注目している」で8位となかなか渋い位置をキープしているワード、「マーケティング投資配分最適化」だ。

 2013年から本格化していくだろうという感覚をもっているのは、新しいソーシャルメディアの躍進や、戦略PRの定着や、スマートフォンの普及という「現象」ではないと思っている。

 むしろ注目すべきは、ではなぜそういった現象がここ数年で起こってきたのか、ということだ。

 その本質を突き詰めていくと、これは(特に日本という国に特異なのだが)、マーケティングにおける非効率がどんどん排除され、効率面において飛躍的に進化するということだ。

 それも投下予算、インサイト調査、ターゲットリーチ、拡散力――あらゆる側面においてだ。

 われわれマーケティングや広告PRに携わる人間は、その本質こそに注目しなければならない。

 6年前の2006年にブルーカレントという戦略PR会社を設立したのも、「戦略PRがそのうち流行るだろうから、今のうちに会社をつくろう」ではなく、「マーケティング投資が最適化されるにつれ出現するマーケットが戦略PRだから」というのが、より正確な想いだった。つまり、戦略PRへの注目は、「ひとつの結果論」に過ぎないということだ。

 ではその「マーケティング投資配分最適化」は、いったいどう進行させていくべきか、ということになるが、ここをもう少し因数分解していくと、(1)「正確なインサイト把握」、それをベースにしたコアとなる、(2)「クリエイティビティ」、そしてそれを具現化させる、(3)「メディアニュートラルなプラン(トリプルメディアやPESOと呼ばれる領域)」となるだろう。

 事業会社としては、この構造からブレないこと、またエージェンシーなどの支援会社はこの構造のいずれか(あるいはすべて)に高い専門性を発揮すること、につきるだろう。ここについては次回のコラムでもう少し掘り下げてみたい。

 こうしたパラダイムシフトはグローバルに進みつつある。世界的なエージェンシーグループでも、従事する社員の意識、クライアントへのサービス体系など、大きく構造変革を推進している。

 僕たちが属するオム二コムグループのフライシュマンヒラードでも、大きなサービス体系をグローバルに再構築中であり、それは大きくNavigate(インサイト の探索)、Ideate(コアアイデアの創出)Activate(具現化と活性化)という流れで示されている。2013年は、次の10年あるいは30年を前提にした、本質的なパラダイムの変革が始まる年になるだろう。

◇ライタープロフィール
本田 哲也(ほんだ てつや)
1970年生まれ。ブルーカレント・ジャパン代表取締役。戦略PRプランナー。米フライシュマンヒラード上級副社長兼パートナー。セガを経て、1999年、世界最大規模のPR会社フライシュマンヒラード日本法人に入社。2006年にブルーカレントを設立、代表に就任。国内外の大手メーカーを中心に、戦略PRの実績多数。著書に「その1人が30万人を動かす!」(東洋経済新報社)、「戦略PR」(アスキーメディアワークス)など。2011年2月に「新版 戦略PR」(アスキーメディアワークス)を上梓。

この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。

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