「ペイパル・マフィア」から「フェイスブック・マフィア」へ - (page 2)

　先週掲載されたNew York Times（以下、NYTimes）の記事によると、Facebookに「社員番号7番」で加わったCohler氏は、大学を出てまもない2002年にReid Hoffman（リード・ホフマン氏：LinkedIn共同創業者、Greylock Partnersのベンチャーキャピタリスト。PayPal Mafiaの中心人物の一翼、Thiel氏とはスタンフォード大学時代からの知り合い。ZyngaなどにはThiel氏とともにエンジェル投資家として出資）と出会い、たちまち意気投合。ホフマンの子飼いとしてLinkedInをしばらく手伝った後、2005年にFacebookに移籍。その後、2008年に同社を離れ、Benchmarkに移ってからもFacebook出身者の立ち上げたベンチャーを中心に投資を続ける。

　Cohler氏の投資先には、Quoraのほか、Dave Morin（デイブ・モーリン）氏のPath、Dustin Moskovitz（ダスティン・モスコヴィッツ：Facebook共同創業者）氏のAsana、そしてFacebookが買収を決めたInstagramなどがある（註5）。

　また、4月半ばにNYTimesに掲載されたInstagramの記事では、「iPhoneアプリをリリースしたら予想外の大人気でサーバがクラッシュし続け、頭を抱えたInstagramのKevin Systrom（ケヴィン・シストロム：共同創業者でCEO）氏が、『自分の知っている人間のなかでいちばん頭の切れるヤツに相談してみよう』と思い立ち、QuoraのD'Angeloに電話。電話を受けたD'Angeloは、30分もつきっきりで必要な手立てについて教え続けた」という一種の美談（？）も紹介されている（註6）。

　さらに、この記事のなかにはTwitterのJack Dorsey（ジャック・ドーシー）氏や、Marc Andreessen（マーク・アンドリーセン）氏の名前も出てくる。二人ともInstagramに投資した人物である。Andreessen氏は、まだInstagramのサービスがほとんどアイデアしかない段階で、Andreessen Horowitzから25万ドルの資金を提供。またDorsey氏はQuoraのD'Angelo氏とともに、2010年2月の資金集めの際にInstagramに投資。そして、この調達ラウンドをリードしたのがBenchmarkのCohler氏……と、実にややこしいことになってくる（註7）

　そしてまた、Andreessen氏らが始めたAndreessen Horowitzといえば、前回の記事で触れたように、Facebookをはじめとして、Groupon、Foursquare、Pinterest、Airbnbといった「活きのいい」ウェブサービスから、新しい仕組みのカメラ技術を開発したLytro、さらにはネットワーク仮想化で通信機器市場の攻略を目指すNicira Networksといった渋めのベンチャーまで軒並み投資している、いまもっとも勢いのあるベンチャーキャピタルのひとつだ。

　さらに、Andreessen氏がAndreessen Horowitzの元手をつくることになったOpsware（HPに売却）には、スーパーエンジェルとして知られるRon Conway（ロン・コンウェイ）氏が資金を提供。またMoskovitz氏のAsana立ち上げ時には、Conway、Andreessen、相方のBen Horowitz（ベン・ホロウィッツ）氏、Sean Parker（ショーン・パーカー）氏、D'Angelo氏、Cohler氏、Mitch Kapor（ミッチ・ケイポア：ロータス1-2-3開発者）氏、そしてThiel氏らがそろってエンジェル投資……と、そのようにして人と企業をノードにしたネットワークは無限に続いていきそうな案配である。

シリコンバレーに流れ込む巨額の資金

　こういう稚拙な説明のしかただと、「結局は狭い世間のなかで、お金やアイデアなどをぐるぐる回しているだけではないか」という見方をされる方がいるかもしれない。しかし、それは一面しか表していないとも言えるだろう。（次ページ「シリコンバレーの源流」）