解説:「3.11以降」を生きる我々が受け止めるべき変化

 連日のニュース報道を見るに付け、3月11日に発生した東日本大震災の影響が、発生より2週間以上経過した現在も、またまだ広がり続けていることを意識せざるを得ない。3月25日時点で死者はついに1万人を突破。まだ1万7000人以上の行方不明者がいる。さらに福島第一原子力発電所の事故も、これに追い打ちをかけ、現在でも深刻な状況が続いている。

 当然のことながら、取材先でも、話題は東日本大震災、福島第一原発事故のことになる。震災当日の自らの体験やその後の生活、そして、なかには近親者が東北地方におり、その安否をいまだに心配する人もいる。そんな今だからこそ、日本を少しでも元気にしたいと願う人も多い。そのためにどんな活動を一人一人が行うべきか。考えて行動に移すことが、今の日本人にとって共通の課題にもなっていると言えよう。

 この震災の体験は、日本に住み、生きる我々に、いくつかの変化をもたらすはずだ。いや、明らかに「変化するきっかけ」となる。

 ITやインターネットの周辺だけを見ても、震災を境にして、その利用範囲や利用するユーザー側の意識までが大きく変わった。

 組織や個人によるTwitterを使った情報受発信やFacebookの活用が広がったことに加え、NHKがUstreamやニコニコ生放送などの動画配信サイト向けに震災関連ニュースの再配信を許可。3月25日24時まで配信を続けていた。また、地上波ラジオ放送のサイマルサービスである「radiko.jp」は、3月13日17時より、これまで実施していた聴取エリアの制限を解除し、どの地域からでも聴取可能になった。これまで数多くの議論がされながらも、なかなか変化が見られなかった状況が、未曾有の災害の発生によって激変した。この変化は、今後の議論における「前提」になっていく可能性が高い。

 災害時の携帯電話やスマートフォンの活用も同様だ。

 都心では、携帯電話での通話が困難になった一方で、ショートメールや、SNSなどのソーシャルメディアといった手段でコミュニケーションをとる利用者が多かったほか、キャリアによって、通話のつながりやすさに差があったという意見も聞かれた。

 筆者自身、いまだに2012年3月でサービスが終了するNTTドコモのmovaを利用している。ドコモ契約者のうち2.9%のユーザーしかいないということが通信状況の良さにつながったのか、FOMAが圏外となっているエリアでも通話が可能だったという経験もした。NTTドコモでは、「巻き取り」という言葉を使いながら、FOMAへのマイグレーションを進めているが、結果的に緊急時の通話接続状況の良さという観点で、movaユーザーの今後の移行に一石を投じる可能性もある。

 そして、節電や災害時対策への考え方は、今後、間違いなく大きく変わっていく。

 これまでにも「エコ」という観点から節電対策に取り組んでいた企業や個人はあったが、東日本の各地で行われている計画停電によって、節電は中長期に渡り、もはや避けて通れない「義務」となってしまった。

 夏の電力需要のピーク時には、電力の供給力が不足することがすでに明らかになっており、3月25日には官房長官である枝野幸男氏が、需給ギッャプを埋める方法として「産業活動のあり方や生活様式の変化などにも対策を広げる」との考えを示している。

 IT業界においては、データセンターにおける電力消費がひとつの大きな課題となる。

 例えば、今回の震災においては、マイクロソフトが実施したWindows Azure Platformを90日間無料で利用できるプログラムが多くの現場で活用された。文部科学省が開始した全国都道府県別の放射線モニタリングの情報提供サイトや、岩手県庁、東北電力や日本赤十字社の各サイトなど、18件のミラーサイトを短時間に構築。アクセスが集中してもサイトダウンを回避できる環境を作る形で、クラウドコンピューティングが災害時に威力を発揮することを証明した。

 こうした実績を背景に、今後クラウド型のデータセンターを活用する動きは拡大するのではないかと思われる。その際、データセンターにおける節電対策やディザスタリカバリ対策にもますます注目が集まりそうだ。これまでは日本へのデータセンター設置が、セキュリティなどの観点から求められていたが、政府機関などが利用する際も、海外のデータセンターをミラーリングサイトとして活用といった動きが加速する可能性もある。実際、マイクロソフトが協力してミラーリングされた文部科学省の放射線モニタリング情報提供サイトは、海外のデータセンターで運営されている。

 ここに挙げたのは、ほんのわずかな例でしかない。しかし、今回の震災をきっかけに、この先、企業や個人の考え方や認識は、大きく変わっていくだろう。震災前のビジネススタイルは、震災後には通用しなくなることも十分に考えられる。震災後に、人々は、企業は、ITに何を求め、何を求めなくなるのだろうか。3.11以降の変化を受け止めながら、新たなビジネスを模索していく必要があるはずだ。

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