「たいしたことない自分」だから、本を書いた--梅田望夫氏講演:後編 - (page 2)

永井美智子(編集部)2007年11月16日 18時43分

「新しい職業」という選択肢

 この中で「新しい職業」と「けものみち」という言葉、コンセプトを打ち出しています。羽生さんのように輝かしい、一芸を極めた上でほかの世界の第一人者と交友を結ぶような、自伝を書けるような人生、じゃないもの。それを言語化したいと思ったんです。日本ではそれがされていないという問題意識があって、「新しい職業」「古い職業」、「高く険しい道」と「けものみち」を分けた(※編集部注:「新しい職業」とは時代の変化とともに生まれた、それまでになかった職業のこと。「高く険しい道」とは1つの専門性を究めて職業とする生き方で、「けものみち」は身に付けた専門性を活用しながらも状況に応じて柔軟かつ総合的に能力を生かす生き方を指す)。

 「ウェブ進化論」が36万部というベストセラーになって、僕のことを知っている人は「とうとう大きな仕事をした」とか言ってくれるんだけど、僕からしたら「ウェブ進化論」より大きな仕事をいろいろしたと思うんだけどね(笑)。何でこれまで誰にも褒めてもらえなかったんだろうと考えたら、「新しい職業」の中にいたからなんです。本を書くというのは「古い職業」で、それを初めてやった。

 「古い職業」というのは長年のうちに仕事が決まっていて、歯車があって、それが回ればリアルの世界がかたかたとうごく仕組みがある。親戚とか両親とかでも、僕が何をやってるかが分かる。丸善で講演会ができるというのもその1つですよね。

 日本人が米国で約30億円集めてベンチャーに投資して、けっこううまくいっているといったって、親戚に話したところで話の途中でみんなどこかに行っちゃう(笑)。「新しい職業」にはそういう苦難の道がある。経営コンサルタントって言ったって「なんだそのいかがわしい仕事は」と言われるのがオチです(笑)

 「新しい職業」って厳しいけど、じゃあ自分がなぜ選んだかというと、自由さとか良さがあるから。いろんな人と出会っていい人生を過ごしたと思ってる。「古い職業」と「新しい職業」のどっちがいいかは向き不向きによるる。でも多くの人は「新しい職業」「けものみち」を行くんです。

 そういう切り口で言語化した道しるべを用意すると、困ってどうしようかと思っている人に、何か僕が悩んできた結果のエッセンスは届けられるんじゃないかと思った。この本のハイライトはそのあたりにあります。「新しい職業」「けものみち」といったところを歩いていくことを言語化する、ということを本を書いている途中から意識しました。

 さてここで、朗読をやってみたかったので、やりますね。203ページにあるんですが、学校の授業みたいになるから本は開けないでください(笑)

  思考実験としてひとつ、若い友人Sを題材に「新しい職業」と「古い職業」について考えてみよう。

 ……日本の大学の理工学部を卒業したSは、宇宙開発という子供の頃からの夢を追求するためにスタンフォード大学の航空宇宙工学の大学院に進み、博士号を取得しようと勉強と研究の日々を送っている。しかし大学院を終えたあとの進路を考えると頭が痛くなる。専門を直接活かせる「古い職業」(大学の先生になる、NASAに勤める、ボーイング等の大企業に勤める)はたくさんの採用募集をしている状況とは言えず、米国中の優秀な学生たちが「古い職業」の数少ない雇用をめぐって椅子取りゲームをしている。Sの専門は熱と制御なのだが、ひょんなことから「グーグルでの雇用」という可能性が見えてきた。グーグルが構築中の巨大コンピュータ・システムにおける今後の最大の課題は熱処理であり、その未踏分野に「新しい職業」が生まれようとしているらしいのだ……

(「ウェブ時代をゆく―いかに働き、いかに学ぶか」203ページ8行目〜204ページ2行目)

 さて、ここでSは「新しい職業」につくほうがいいと思う人(※編集部注:会場のほとんどが手を挙げる)。本当かなぁ(笑)。僕がそういうことを言ってるからって、心を偽る必要はないですよ。自分の息子を当てはめて、それでも「新しい職業」のほうがいいと言えますか?(※編集部注:再び会場に聞くが、やはり過半数が手を挙げる)・・・すばらしい。これなら日本も変わりますね(笑)

 「新しい仕事」って未来がないんですよ。3カ月でクビになるかもしれない。本当です。でも、うまくいかなかったなぁといってもその先があるんです。そこでどう考えたらいいか、というところでロールモデル思考法がある。「新しい職業」でいいですか?そうですか。

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