ライブドア遺伝子の行方--証言「あの時の社内は……」 - (page 3)

 しかし今やライブドアは事実上解体されつつあり、楽天は業績不振に陥った。TBSとの問題も暗礁に乗り上げたままで、先行きは不透明だ。ヤフーは相変わらず王者として君臨しているが、しかし井上雅博社長はさかんにヤフーのソーシャルメディア化を語り、ポータルとしての危機感を露わにしている。Web 2.0の潮流の中でポータルビジネスが曲がり角に来ているのは間違いなく、ポータルを担ってきた巨大ネット企業も成長の曲がり角を迎えつつあるのだ。

 そうした中で、実はライブドアは2005年当時にすでにWeb 2.0に傾斜させた戦略を採りつつあった。ライブドアブログは国内のブログサービスの中では突出して先進的であってし、mixiそっくりのSNS「フレパ」や、flickrそっくりの写真共有サービス「livedoor PICS」、さらに利用者から強く支持されたRSSリーダー「livedoor Reader」など、かなり積極的にソーシャルサービスを取り込んでいたのである。この戦略は実のところかなり無意識的に行われていたのではないかと思われるし、「インスパイア系」と揶揄された物まね戦略は決して褒められたものではなかった。しかし結果としてみれば、方向性としては間違っていなかった。

 すでに過去の話となった事実に「if」を語るのは適切ではないのは承知しているが、しかしライブドアが強制捜査を受けず、これらソーシャルメディア戦略を早いスピードで進めていたらどうなっていただろうか――というのは、非常に興味深い夢物語だ。結果的に事件を起こしたとはいえ、2005年当時のライブドアは高い技術力を持ち、優秀な人材を多く抱え込んだすぐれた企業だったというのは、少なくともネット業界を知っている人間にとっては、常識的な事実である。テレビのコメンテーターたちが「ライブドアは虚業だ」「実態のない金融屋だ」といくら叫んでも、この事実は変わらない。

 だがライブドアは事件を起こし、強制捜査を受けた。それでもまだ会社としては再生可能な時期はあったものの、USENとの関係がこじれ、明確な経営戦略を打ち立てることができないまま一年が経ってしまった。この間に、優秀な人材はどんどん流出してしまい、社内の雰囲気も大きく変わってしまっている。ライブドアが今後、Web 2.0の世界で最先端に立つことは決して不可能ではないが、しかしハードルとしてはかなり高いと言わざるを得ない。

 おそらくはソーシャルメディアを主力事業にしているゼロスタートのような企業が、ライブドアのかつてのDNAを体現していくことになるのかもしれない。同社の羽田さんは、私のインタビューにこう言っている。「すごく濃厚な、ライブドアのインターネットビジネスの遺伝子がこの会社にはあると思う。その価値を世の中に問うことは、僕は意味があると思っています」

 いずれにせよ、ネット業界は歴史をつむぎ始めたばかりである。これから先は長い。ライブドアの挫折は長く語り続けられることになるだろうが、しかしすでにその話は過去の歴史の一幕になりつつある。

佐々木俊尚

毎日新聞社会部記者として警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人事件や海外テロ、コンピュータ犯罪などを取材。その後、アスキーなどを経て現在はフリージャーナリストとして活躍。著書に「ヒルズな人たち―IT業界ビックリ紳士録」、「ライブドア資本論」、「グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する」などがある。

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