GPL3で対立が深まるオープンソースコミュニティー--協調か分裂か

文:Jonathan Zuck
翻訳校正:吉井美有
2006年10月12日 20時25分

 「公平性の観点からはGPL3はもはやその機能を果たしていない。その内容はまったく扇動的であり、FSFの過激な方針にしか寄与しない。GPL2は多くの個人に受け入れられ、一度説明すれば多くの企業からも支持を得られる優れたバランスを持っていたが、GPL3にはそれがない」--Linus Torvalds、Linuxファウンダー

 だから言ったのだ。

 2006年初めに、わたしは「GNU General Public License 3(GPL3)はオープンソースコミュニティーとフリーソフトウェアコミュニティーを危機的状況に追い込む可能性がある」と書いた。当時は、一部にはまったく取り合わない人たちもいたようだ。しかし、オープンソースソフトウェアの商用ユーザーたちの心配を無視するかのようなFree Software Foundation(FSF)の決定とGPL3の最新ドラフトの内容は、コミュニティーを2分しFree/Libre/Open Source Software(FLOSS)の成長を鈍化させることになりかねない。

 この10年間で、ソフトウェアの世界で起こった最も興味深い現象といえば、FLOSSの台頭である。Linux、Apache、OpenOfficeのようなソフトウェアは、プロプライエタリなソフトウェアが大半を占める業界に競争をもたらし、次世代ソフトウェアの開発に拍車をかけた。この成功によって、フリーソフトウェアコミュニティーとオープンソースコミュニティーの境界線はほとんど見えなくなっていたのだが、GPL3によって両者の対立が再び浮き彫りになった。

 Richard Stallman氏とFSFは、遠回しに、そしてときには公に、自分たちのソフトウェア、哲学、名前が、拡大するオープンソースコミュニティーに飲み込まれてしまったと怒りをあらわにしていた。フリーソフトウェアコミュニティーの哲学とは、4つの自由を軸とする社会の理念を伝道することである。一方、Linus Torvalds氏やIBM、Red Hat、オープンソースコミュニティーなどの目標は、オープンソースライセンスモデルを軸に優れたソフトウェアと利益性の高い事業を作りあげることだった。

 オープンソースコミュニティーにとっては残念なことだが、GPLの将来はStallman氏が結局は握っており、企業の商業的な成功は彼の最大の関心事ではない。冒頭に紹介したTorvalds氏のコメントは、2つのコミュニティー間で高まる緊張を如実に反映している。GPL3で何が変わるのか見てみよう。

 最も物議を醸している条項、すなわち反DRM(デジタル著作権管理)条項は、フリーソフトウェアコミュニティーでは最も評価されている条項だ。FLOSSコミュニティーの大半のユーザーたちは、コンテンツ業界に限っていえばこの条項が掲げている目標に賛成している。しかし、この条項はそれよりはるかに広い範囲に適用されるため、多くの業界でGPLソフトウェアの使用を事実上禁止することになってしまう。とりわけ、組み込み機器業界への影響が大きい。

 TiVoの件でも分かるように、この条項には、ハードウェア製造元が自社製品の最終的な実装を統制するのを禁止する文言が含まれている。Linuxを搭載した携帯電話を例に説明しよう。この条項は、携帯電話のユーザーが電話に組み込まれているすべてのコードを変更し、実行できるようにすることを要求する。これは良いことのように思えるが、携帯電話の設計を地域ごとに承認している当局からすると、自由に中身を変更できる携帯電話が登場することは警戒すべき大きな問題となる。

 また、GPL3ベースのソフトウェアは、医療機器では全くの論外である。医療機器の安全性と有効性に関する公的機関のテストは、厳しくかつきわめて個別の用途に特化したものだ。装置は実際の動作環境と厳密に同じ設定でテストしなければならない。規制当局は「この設定で問題ないでしょう」などというあいまいな返答は受け入れてくれない。何より「オープンな」医療機器など登場したら、弁護士たちが大忙しになるだろう。

 しかし、最も忘れられがちなのは、プライバシー保護が重要な意味を持つ種類のソフトウェアにこの条項が与える影響である。例えば、公的文書の作成および管理のためのソフトウェア市場は、オープンソース業界にとって重要なターゲットである。しかし、GPL3のDRMの定義では、音楽や動画だけでなく文書の作成ツールでも、暗号化鍵を使ったアクセス制御が禁止される。

 つまり、こういうことだ。GPLの下で作成されたDVDの再生が可能なGPL準拠のDVDプレーヤーを作成できるなら、どんな文書でも読むことができる文書リーダーを作成できることになる。しかし、プライバシーの侵害に関わる最近の事例をみれば分かるように、アクセス制御(ここでは著作権管理と同義と考えてよい)はプライバシーの保護を実現するのに欠かせない部分である。

 GPL3が現在のまま公開されれば、フリーソフトウェア陣営とオープンソフトウェア陣営の対立は確実に深まることになるだろう。しかし、現時点では、GPL3の内容が大幅に変更される可能性はほとんどない。GPL3が公開されれば、FLOSSコミュニティーの時代は終わり、フリーソフトウェアとオープンソフトウェアの2つのコミュニティーが別々の道を歩み始めることになる。問題は、GPL3公開後の世界がどのようになっていくのかという点だ。

 コミュニティーが2つに分かれると、StallmanとFSFは(オープンソースコミュニティーで)無視されるようになっていくのだろうか。GPL3とその目標である倫理的な純粋さは、オープンソースコミュニティーによって拒否され、道端に追いやられてしまうのだろうか。

(編集部注:このコラムは、米国時間9月12日にCNET News.comに掲載された英文コラムを翻訳して掲載しています)

著者紹介
Jonathan Zuck
ワシントンD.C.を拠点に活動する業界団体Association for Competitive Technology(ACT)の代表者。テクノロジー関連の問題に特化した同グループには、Microsoftなど約3000社がメンバーとして参加している。

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