CONNECTプロジェクトがソニー復権の切り札にならなかったわけ - (page 2)

文:John Borland(CNET News.com) 翻訳校正:尾本香里(編集部)2006年06月06日 08時00分

QuickTimeの開発者からソニーの秘密兵器に

 Hoddieは決して世に名を知られた人物ではないが、デジタルメディアの世界では有名人である。

 彼は自分で起業する前の10年間、Appleで、初期のQuickTimeプロジェクトの開発にチームリーダーやチーフアーキテクトとして携わった。当時Appleに勤務していた人物によると、QuickTimeの初期バージョンのコードの大半はHoddie氏が書いたものであり、1994年にWindowsに移植される直前の頃、Hoddie氏はQuickTimeのコード全体を把握していたAppleでも一握りの技術者の1人だった。

 「彼は非常に優秀で、Appleでも重要な人材の1人だった」と、AppleのQuickTimeチームでテクノロジエバンジェリストを務めた技術マーケティングコンサルタントJonathan Hirshon氏は言う。

 2000年になると、Hoddie氏はストリーミングメディア企業Generic Mediaを設立する。この会社にはソニーも出資していた。そして、2002年には、Generic Mediaを引き継ぐ形で、Apple時代の同僚2人と組んで、もう1つマルチメディアソフトウェア会社を興す。それがKinomaだ。

 Kinomaが現在発表しているデジタルメディアプレイヤーやフォトアルバム、メディアマネージャなどの製品は、各種携帯デバイス、とりわけPalmベースのハンドヘルド機器やソニーの携帯型PlayStation上でデジタルメディアを使用する人たちをターゲットにしたものだ。Kinomaは外部企業のコンサルティングも行っており、ソニーの小さなプロジェクトにも関わっている。

 しかし、同社の目玉となる技術はあくまでFSKと呼ばれるコードベースである。FSKは、マルチメディアファイルのPCへの転送およびハンドヘルド機器間での転送を処理する新しいプラットフォームだ。

 当然自分たちのものであってしかるべきだったデジタル音楽業界における独占的な地位をSteve Jobs氏に盗まれたと感じていたソニーの幹部たちにとって、AppleでのHoddie氏の経歴は魅力的だった。2005年、Hoddie氏は、FSKを基盤技術として用いたデジタル音楽ソフトウェアKtunesのプロトタイプをデモするまでにこぎつけた。Ktunesを使えば、ソニー独自のデジタル音楽ビジネスを一気に立ち上げることができそうに思えた。

 しかし、このプロジェクトは、ソニーのある幹部の言葉を借りると、「まぎれもない大失敗」に終わった。

 批評家たちによると、FSKは成熟した技術ではなく、それを扱うソニーのプログラマたちに必要なドキュメントがほとんど用意されていなかったという。また、ソニーの既存のウェブシステムや商用システムに組み込めるように設計されておらず、インターネットアプリケーションで通常使用されるHTMLやXMLといった標準にも準拠していなかった。このため、どのような機能を実装するにも大変な労力が必要だった。

 ソニーの内部関係者によると、Kinomaの中核技術は携帯用デバイスとPC上の両方で動作するように設計されていたという。FSKベースのSony Walkmanのプロトタイプも開発されたが、ソニーは早い時点でその路線を捨てて、あくまでPC上のプラットフォームとしてのKinomaの技術にこだわった。

 この決定に対して米国のプログラマからはさまざまな疑問があがっていたが、東京の経営幹部たちはCONNECTプロジェクトのチーフアーキテクトとしてのHoddie氏の役割を再確認する内容のメモを回覧しただけだった。ある内部関係者は、プログラマたちと幹部の間のコミュニケーションは破綻していたと語る。しかし、このような幹部の態度ではそうした事態が解消されるはずもなかった。

 初夏までには、CONNECTプロジェクトのプログラマたちは、新世代Walkmanに搭載するソフトウェアを夏の終わりまでにリリースするという計画は到底実現不可能であると言い始めていた。プログラマたちはFSK(の出来の悪さ)を責め、Hoddie氏はプログラマたちを責めた。

 問題は遂に頂点に達し、CONNECT プロジェクト担当のコ・プレジデントであるWiser氏(ニューヨーク) と辻野氏(東京)がカリフォルニア州サンノゼに飛び、プログラマたちとの話し合いに臨んだ。Hoddie氏もこの話し合いに出席した。プログラマたちはCONNECTプロジェクトの現状と彼らの不満を再度幹部にぶつけ、当初の予定通りにリリースするのは不可能であると断言した。

 この話し合いで幹部たちもようやく厳しい現実を認識した。そして機能削減が始まった。ソニーの中心的なプログラマたちとKinomaの関係は完全に冷え切っていたので、日本のチームが両者の仲介役を要請され、サンノゼとパロアルト間のやりとりを中継した。

 こうして遂にCONNECT Playerがリリースされたものの、その出来に喜ぶ者は誰もいなかった。そして、ソニーの歴史上前例のないことだったが、米国側の幹部たちはCONNECT Playerのリリースを拒否することになる。しかし、欧州の幹部は米国とは意見を異にし、予定通りリリースした。2005年11月、日本もそれに続いた。

 顧客からは重大なバグが報告され始めた。なかにはバグのせいでまったく使えないというものもあった。1月、ソニーは顧客に対する謝罪を発表し、以降アップデートを繰り返しても正常に動作しない場合は、CONNECT Playerの前身であるSonicStageをダウンロードすることを推奨した。

 幹部たちはCONNECTプロジェクトの立て直しを検討したが、結局、不可能との判断を下した。パッチは4月までリリースされたが、以降、CONNECT Playerの開発は完全に中止された。

Kinomaの第二の道

 CONNECTの失敗とともにソニーでのKinomaとHoddie氏の役割も終わったかというと、実はそうでもない。

 2006年初めには、KinomaのFSKを基盤技術に採用したソニーの新しいeBook Readerの開発が始まっている。

 内部関係者によると、Hoddie氏は、このプロジェクトで、CONNECTのときよりもさらに直接的な権限を与えられているという。1月にラスベガスで開催されたConsumer Electronics Showで、Stringer氏はこのeBook Readerを派手に売り込んだ。2006年春のリリースを予定しているという。

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