CONNECTプロジェクトがソニー復権の切り札にならなかったわけ

文:John Borland(CNET News.com) 翻訳校正:尾本香里(編集部)2006年06月06日 08時00分

 2005年初め、ソニー消費家電部門の十数人の社員たちが異例の会議を開くため、カリフォルニア州パロアルトにあるデジタルメディアの新興企業Kinomaの本社に集まった。

 Kinomaの最高経営責任者(CEO)Peter Hoddie氏は、かつてAppleに在籍していた人物で、何かと世間の注目を浴びていたデジタル音楽プロジェクト「CONNECT」をはじめとする、ソニー製ソフトウェアの開発の舵取りを任されていた。これまで他社のテクノロジを使用することを嫌ってきたソニーにとって、これは大きな方向転換だった。

 ソニーの社員たちはKinomaのオフィスの仮眠用ベッドが並べられた共有スペースで2時間以上にわたって話し合った。出席者の話によると、Hoddie氏は自社製品の売り込みはしたが、それ以上は何も話さなかったという。CONNECTに使用する技術の詳細について尋ねられると、Hoddie氏は口をつぐみ、何も語ろうとしなかった。会議は険悪なムードになり物別れに終わった。

 プログラマたちはCONNECTの開発に取りかかった。目的は、AppleのiTunesに対抗するソフトウェアを作ることだった。しかし、ソニーは、社内の政治的駆け引きや、困難なプログラミング作業、(Appleに先を越された)いらだちなどで機能不全の様相を呈していた。そして、それはソニーのデジタル音楽市場に対する野心の実現に大きな障害となっていく。14カ月後、CONNECT Playerはリリースされたものの出来は悪く、Appleに追いつこうとするソニーの目論みの失敗は決定的となった。

 CONNECTプロジェクトの経緯に詳しいソニーの社員によると、「CONNECTには多くの問題があったが、うまくいく可能性も残されていた」という。本件に関するインタビューを受けたソニー内部の人間は大半がそうだったが、この社員も名前を伏せることを条件に話してくれた。「CONNECTのソフトウェアはうまくいきそうだった。しかし、その望みも完全に消えてしまった」(同社員)。

 CONNECTプロジェクト失敗の波紋は、その後も、ソニー社内に広がり続けている。ソニーの関係筋によると、米国時間5月30日にCEOのHoward Stringer氏は、CONNECTプロジェクトの責任者で、Sony Corporation of Americaの最高技術責任者(CTO)であるPhil Wiser氏が退職することを社に報告したという。

 関係者によると、Wiser氏はシリコンバレーにあるホームエンターテイメント関連会社Building Bに移るという。CONNECT部門は、ソニーの上席副社長でMedia Softwareグループを統括していたSteve Bernstein氏が引き継ぐことになる。

 ソニーの広報担当はこの件に関してコメントすることも、同社のデジタル音楽事業に関して説明できる幹部を紹介することも拒否した。Hoddie氏もコメントを拒否している。

 iTunesに追いつこうとしたソニーの試みは、他社のテクノロジに手を出し、結局は失敗に終わるという悪しきパターンの最初の事例となった。このパターンは、鳴り物入りで宣伝されたソニーのeBookプロジェクトをKinomaが担当するという形でその後も続いている。

 なぜソニーは、自社の将来にとって極めて重要な技術を外部の会社に求めてしまうという、ソニーらしからぬ戦略をとってしまったのだろうか。

 ソニーの内部関係者によると、Appleがデジタル音楽市場で急成長したため、ソニーの幹部は、Apple製品に対して嫉妬と尊敬の両方の感情を持つようになったのだが、だからといって、Microsoftのデジタル音楽テクノロジに依存することも拒んでいたという。

 このようにAppleをうらやみ、Microsoftを嫌悪していたソニーの幹部たちにとって、KinomaとHoddie氏は実に魅力的に映ったのだ。

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