大規模プロジェクトでは、地元の人間を巻き込むことが特に重要だとHaamerは言う。よその土地から来た人間には、無線通信に影響を与える可能性のある、その地域特有の事柄--たとえば(通信の障害となる)丘とか、中世の廃墟とか、地方の政策とかいったことがわからないからだ(これは、GoogleやEarthLinkなどの企業が米国の地方都市のネットワークを構築する際にも注意しなければならない点だ)。
エストニアの無線接続網は、大半が民間企業の手で維持されている。特に首都タリンでは、このインタビューを行ったカフェのようなところが主な担い手となっている。「カフェのオーナーは、ネットへのアクセスを『お手ふき用のナプキン』と同じくらい当たり前の事柄とみなすようになってきている。客のほうも、新聞とネットへのアクセスを当然のサービスとして期待しており、どちらかが欠けていると別の店に行ってしまう」(Haamer)
Haamerのグループはいま、電気と同じようにどこからでもインターネットへアクセスできるようにすることを目標に、各自治体のネットワーク構築に取り組んでいる。彼はEUと協力して、ある地方都市に広範なLANを構築するための資金集めを進めてきた。そして、他の都市がこのプロジェクトをお手本にして、それぞれ自前のネットワークを構築してくれることを期待している。同氏は、最終的に現在のWi-Fiサービスを、現在まもなく製品が登場するWiMAX技術に置き換え、さらに強力なものにしたいと考えている。
一方、彼と仲間たちは、Wi-Fi網を使ったビジネスを立ち上げたり、他者が製品を生み出すことに力を貸してもいる。彼のグループでは、ユーザーがカフェで携帯電話からSMSメッセージを送信してWi-Fiサービスにサインアップし、電話サービス経由でパスワードと請求書を受け取るツールを既に開発済みだ。
また、Wi-Fiを導入したカフェで、Skypeを利用した有料電話サービスを提供する計画もある。このサービスを使えば、ユーザーは、インターネット音声接続を利用して、自分の携帯電話よりも安くヨーロッパの国々に電話をかけることができる。
単なるビジネスセンスよりも情熱のほうが重要であることは、テクノロジーの歴史が証明している。米国の大手IT企業の創設者たちは、大半が技術によってもたらされるお金ではなく、技術そのものから創造力をかき立てられた。Steve WozniakとApple Computerはその典型的な例だ。
Haamerもそうした情熱あふれる人間の仲間入りを果たしたといえる。まわりの先進国ではWi-Fi関連のビジネスで財をなした人物もいるが、彼は小さなアパートに住み、古い車に乗っている。Wi-Fi普及活動家という仕事は、かならずしも派手に金を使えるほどもうかるわけではない。しかし、彼や彼のような人間が働いていることは、エストニアの将来にとって良い兆候である。
「今、若い人たちは都会に移り住んでいる。都会ならネットを使って仕事ができるからだ。われわれは、国中どこにいても都会と同じことができるのだということを証明したい」(Haamer)
著者紹介
John Borland
CNET News.comのライター。2003年、コンピュータゲーム文化についての共著書『Dungeons and Dreamers』を出版。
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