イデオロギーよりも実利を取ったアップル

 米国時間6日、WWDCの基調講演会場にいた4000人近い聴衆は、Steve JobsとPaul Otelliniが互いに両腕を大きく広げて歩み寄ると、目の前で起こっている光景に拍手喝采をおくった。Apple ComputerとIntelのCEO同士が手を組むという、これまで到底考えられなかったことが起きようとしていた。

 しかし、聴衆の目の前でどう振る舞ってみせればよいかという点で、両者の考えが大きく違っていたことがすぐに明らかになった。

 JobsはOtelliniに握手を求めたが、すっかり感情を高ぶらせていたOtelliniのほうはしっかりと抱き合おうとした。予定外のことに、両者は一瞬だけ抱きあって、すぐに離れてしまった。

 イスラエルの元首相Yitzhak RabinとPLOの前議長Yasir Arafatが交わした、あの有名なうわべだけの握手ほどではないにしても、不倶戴天の敵であったはずの両者が突如として人前で友人同士であるかのようにふるまって見せたときの、あの何とも言えないぎこちなさは、多くのApple支持者が感じた困惑をよく表していた。

 「もっとも仲の良い友人2人が結婚することになったが、それが自分にとってどういう意味を持つのかわからない、といった感じだ」と、WWDCに参加していたDenver Public Schoolの技術者、Matthew Woolrumsはコメントしている。

 もっとも、両者の場合は、どんな意味でも決して友人と呼べるような関係ではなかった。確かにIntelは、初期のAppleにいくらか投資をしているが、そんなことは両者の激しい敵対関係のせいで、何の意味も持たなくなっていた。1980年代半ば以来、忠実なMacユーザーたちは、Wintel帝国を相手に勝ち目のない戦いをつづけることに夢中になっていた。

 多くのMacユーザにとって、IntelチップをMacに搭載するというAppleの決定は、あまりに急な、しかも180度の方向転換といえよう。Apple自体のレトリックから判断して、同社の幹部がついに邪悪に身をゆだねてしまうのかと絶望する人もいるかもしれない。しかし、「Appleはほかとは違う」などという感傷的な考えは、いい加減卒業しようではないか。Appleが自らのイデオロギーを捨てて実利をとったのは、今回が初めてではない。

 私は、10年前にも、Intelチップ上で動くMacintoshのプロトタイプを見たことがある。Appleはその後、このプロジェクトを中止してしまったのだが、そのときApple社内では多くの関係者ががっかりしていたものだ。彼らは、そのプロジェクトが決定打になると信じていた。もっと最近では、Mac OS XのコードをIntelマシン用にコンパイルするプロジェクトに取り組んでいた(Jobs に言わせれば、「念のために」ということらしいが)。彼の口から理由を聞くまでもなく、AppleはNo. 1の座を目指していたのである。

 こうした例と同じような、実利的な覚めたものの見方が、今回のIntelとの提携からも見てとれる。Appleは1997年に、Microsoftから1億5000万ドルの資金提供を受けたと発表して、世間を驚かせた。その年のはじめに、Jobsは当時のCEO、Gil Amelioの追放に手を貸した。そして、Internet ExplorerをMacのデフォルトブラウザとして受け入れる代わりに、Microsoftから必要な資金提供を受けるという、きわめて現実的なビジネス上の賭けに打って出たのだった。

 Macworld Bostonの基調講演で、Bill Gatesの顔のライブ映像が大画面に映し出されたとき、参加者の一部は息が止まるほどびっくりしていた。しかし、そのショックも、Microsoftから資金提供を受けることを知ると消えてしまった。

 今回も、JobsがIntelチップの採用を認めたときには、不平の声が上がった。しかし、Jobsは人を喜ばせるのが本当にうまいので、今回もすぐにユーザを手なずけてしまった。彼は(主としてソフトウェアの互換性維持のために)PowerPCからIntelチップへの2年がかりの移行が決して平坦な道のりではないことさえ認めた。それでも、これまでのものより強力なチップを搭載した新しいMacintoshが登場すれば、忠実なMacユーザーは間違いなくIntelチップを搭載したその新型Macを購入することになるだろう。

筆者略歴
Charles Cooper
CNET News.com解説記事担当編集責任者

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